注目

小説「PSO2-ACE’s」の今後について

 以前より、リアルお仕事事情(新型コロナウイルス(COVID-19)問題と関連の問題)により、当面お休みとさせて頂いていた本作ですが……

 原作側ラスト間近のストーリーにおいて、此方の想定を覆す事態に発展し
なおかつ致命的な問題と成りかねない事が判明しました。

 特に致命的な問題を生じたのは、序盤であっさり凍結させてしまった竜族の長である「ロ・カミツ様」の扱いです。
 この方……原作PSO2の最終ストーリーにおいて、全知存在シオンの模倣体の1つである事が明らかとなりました……これは本作の構想段階では一切考慮されていなかった事であり、私が敵対勢力であるダークファルスとのパワーバランスを誤認したままだった事が主な原因です。

 なお、このような時期までこの件を取り上げなかったのは
どうにかして作中で修正できないか……と苦心していた(のと、現在の執筆環境に不慣れだった)為です……でも、ぶっちゃけ修正は無理でした(´・ω・`)ショボーン

 このような事態に陥ったため、現段階のままで当初の物語を書き続ける事は矛盾や原作描写や設定との乖離を誘発し、最悪ストーリーそのものまでグチャグチャになってしまうと判断……その上、本作に対する執筆時間の確保やリアル事情も兼ねて……

 一度、完全打ち切りという扱いとし……
問題点を改善したストーリーを再構築した上で再構築する事にしました。

 どれだけ継続を待ちわびた方がいらっしゃったかは分かりませんが、
このような判断をした事については、非常に申し訳なく思っております……

 本作の今後についてですが、再開の目処が立ち次第
追って報告をさせて頂き、また執筆環境の改善も兼ねて

別サイトとの同時掲載・更新 を併せて考えております。

再開の暁には同時展開の詳細と合わせて、再度のご報告をさせて頂く事になります。

2021/04/22(金)睦月透火

第22話 再び這い寄る混沌

 あれから数日後、例の女性キャストが意識を取り戻したとの報告が入る。
レギアスを始め、40年前に彼女……ディアと関連性のある人物が全員呼び集められた……その中には何故か、トリニティや眞那、瑠那の姿もあった。

「……シャオ、何故僕達まで?」

 訝しむトリニティの問いに、シャオは真面目な表情を崩さず答える……

「今の君の姿、そして彼女たちの過去をもう一度洗い直した結果……君達の遺伝子情報と、彼女のキャスト化前のデータを照合した所……血縁関係である可能性が出たんだ。
 その一致率は約92.5%……どうあっても見過ごせない一致率なんだ。

 それで、もしかしたら……と思って呼んだんだけど……」

 歯切れの悪いシャオの言葉に、トリニティは疑問符を浮かべるしか無かった……

「お待たせしました……さぁ、コチラへどうぞ」

 看護官のフィリアに連れられ、松葉杖で現れた紅い女性キャスト……

「へぇ……身体こそキャスト化してるけど、顔や雰囲気はアイツそのままだ……」

 レギアスと同じく、ディアと付き合いの長かったマリア……見た目こそキャスト化による差異はあれど、その根本……彼女らしさ自体は薄れていないと語った。

「先程彼女自身の過去の記憶の有無を確かめた結果なのですが、『全生活史健忘』……まり、彼女は自分の名前すら思い出せない程の完全記憶喪失状態だと診断されました」

 フィリアの語った診断結果に、集まった全員が絶句する……全生活史健忘とは、ある時を堺に生まれてからの全ての過去を忘れてしまう記憶障害の一種で、名前はおろか過去の出来事などの一切を思い出せなくなってしまうのである。
 主に自己に関する記憶が綺麗サッパリ抜け落ちるのだが、社会的な事象や出来事は覚えている事もあり、事実……彼女の記憶に40年前の【巨躯】戦争の情報はあった。

「……それでは、私達の事は一切覚えていない……と、言う事かね?」

「個々の情報まで精査した訳ではないので、今はなんとも……しかし、自身の過去を一切覚えていないのは確かです」

 レギアスの問いに、心苦しさを滲ませてフィリアは答えた。
 レギアスも、その答えに悲しさを滲ませながら「そうか……」と言うだけであった。

「……済まないが、私には君達の消沈の理由が掴めない……私の過去の記憶が無いのがそんなに大事なのか?」

 当の本人からの意外な反応に、シャオがまず目を剥いた。

「君自身の記憶だよ? 君は自分の過去がどうでもいいのかい?」

「どうでもいいとは思っていない……ただ、私の過去がないのは私の事であって、君等が気に病むことではないと言っている。
 私に過去があろうとなかろうと……今を生きているだけで私は満足なのだ。

 それに、例え記憶喪失であっても……私は私だ、他の誰でもない」

 彼女の言葉に、少しの沈黙の後……シャオは笑いだした。

「アハハハッ! そうか……そうだね」

「過去に縛られず、今この瞬間を生きる……
 その刹那に生きる者……そう、今より私は……刹那、とでも名乗ろうか」

 縛られた過去を捨て、彼女は今を生きる事を選択した。
 たとえ過去に何があろうとも、彼女は今を生きようとしている……それを自分が阻む訳にはいかない……レギアスはそう思い、トリニティの肩を叩く。

「分かってます……わざわざ過去を詮索するほど僕も無粋じゃありませんし、何より……母としてでなくとも……こうして生きていると、分かったのならそれで良いと……僕も思っていますから」

「……そうか……」

 彼女に深い関わりのある男2人が、これ以上は望むまいと心に決めるのだった……

第21話 過去より蘇りしもの

 実験施設から救助された女性キャストは型の古いタイプのパーツがあまりにも多く、同型パーツの入手が最早不可能と判断され、最新型の生体ハイブリッドモデルへの換装を余儀なくされた。
 なお、採用されたのは最新鋭モデルの一つ『ナイトメア・シリーズ』……
軽量かつ強靭なメインフレームと静音性に優れた設計、高速戦闘にも対応した汎用パーツが高水準で融合した良品である、と高評価のモデルだ。

「……カラーリングはそのままなのね」

「うん、目覚めて間もない内から、あまり違和感を与えたくはないしね」

 彼女のボディカラーは換装前と同じく……メインの深紅に、白く見える部分は銀が使われており、サブカラーはセッティング順に金、灰、緑となっている。

「実を言うと、彼女の状態は最悪の一歩手前だったんだよ……
 記憶領域(メモリーデータ)は破損だらけ、個体識別情報は削除されてるから製造元のトレースも無理……おまけにアセンブリデータも消されててパーツが何処の誰製なのかも不明と来た」

「何よその徹底的な情報対策……完全に『裏で使う予定です』感バリバリじゃない?」

 そう、彼女の機体情報から製造元などをトレース(追跡調査)出来ないかと洗ったのだが……潔癖症の如き徹底ぶりで情報が削除されており、製造元はおろか使われた資材の提供元すら特定できず、追跡調査はあっさりと断念されてしまったのである。
 これ程までに徹底的な情報対策を施された機体……つまり、裏……虚空機関に関係する存在ではないかと問題も浮上したが、シャオ直々の調査によって少なくとも実戦への出動や戦闘に出された記録は無く、施設内から持ち帰られたデータにもその様な記録は一切なかった為、被験者の域を出ないと結論付けられた。

「兎に角、彼女が目覚めてくれないと事情も聞けないからね……」

 ため息を吐くシャオを尻目に、やや呆れ顔のサラがカーテンを開け放つ。
心地よい風と日光が、未だ眠りから冷めない彼女の頬に当たり始めた……

「ん? ……おぉ、ココに居たのか2人とも」

 入り口から声が響き、部屋へと入ってきたのは白装束と言っても過言ではない男性キャスト……六芒の壱、レギアスだった。

「やぁ、レギアス……教導部の方は良いのかい?」

「マリアの奴が少々張り切っておってな……調査団が持ち帰ったデータに、訓練相手として丁度良いものが見つかったとか……それを自ら試している所だ」

 時折、戦闘狂じみた行動を取る六芒の弐、マリア。
レギアスと同じく後続に道を譲るため前線を退いたはずが、今なお自ら最前線に立とうとする……
 後継の育成を目的に発足した教導部内において、マリアの行動はその方針に沿わない事でも有名だった。

「あはは……それはまた……」

「まったく、バカマリアめ……本当に総務部の仕事をアタシに丸投げしてきたわね」

 そう、本来マリアは総務部のトップである。

「……して、彼女が救出されたキャストか」

 遠目からレギアスが窓際に据えられたベッドで眠る赤い女性キャストに気付いた。
シャオは頷いて肯定し、サラもカーテンの遮光レースを戻して光量を抑え、確認しやすくしてくれた。

「30数年前に失踪したらしいという情報だけでは、さすがに身元の特定は無理だったよ……」

「そうか……む? この顔……いや、まさか……あり得ん!」

 シャオの言葉に相槌を打ちながら近付いて顔を確認したレギアスの表情が一変、驚愕と懐かしさを混ぜ込んだ複雑なものへと変わる。

「レギアス?」

 サラの問いかけにレギアスは少しの沈黙の後に驚愕の一言を発した。

「いや、この顔は間違う筈もない……
 彼女……ディアは、40年前の【巨躯】戦争時に失踪した……私の従姉弟だ」

第20話 破滅を齎す妖花

「コイツぁ、ちと面倒な事になりそうだな……!」

ゼノが漏らした一言……それは、眼前に集まる大量の海王種と、ダーカーの軍勢。
それも10や20どころの話ではない……

「まったく、厄介事は厄介事しか呼ばないのね……!」

100に届こうかという大軍勢を前に、ユクリータの溜息が漏れる

「相棒やマトイはまだ動けねぇんだ……俺がしっかりしないと……!」

「あれだけ後輩が頑張ったんだから、私だって少しは役に立たないと……!」

アフィンとエコーは己を鼓舞するように呟く……
そして、アークス4人が臨戦態勢を整え、打って出るため踏み込もうとしたその時。

“第20話 破滅を齎す妖花” の続きを読む

(続)外伝「境界を超えし者達との共闘」

前回からのあらすじ

異世界から来た剣士「キリト」と「アスナ」
オラクルへと舞い降りた異世界の剣士2人は、守護輝士と出会い
打ち解けて仲を深める

そんな中、突如として消えたはずのフォトナー艦隊がオラクルへと襲撃してきた
同時に現れたアークスらしき白衣の男によって、アインクラッド時代の愛剣を手渡され
キリトとアスナは、アークスとの共闘を要請される

疑心に囚われながらも、白衣の男の真摯な姿に根負けして
協力を承諾する2人

そして他の世界から来た者達もまた
それぞれがアークスに受けた恩を返すかのように
各々動き出すのであった……


「……本当に良いのね? 相手は未知の軍勢なのよ?」

「僕らが此方で助けられた様に、今度は僕らがあの人達を助ける番だと思うんです……それくらいしか出来ないと思うけど、これは3人で決めた事ですから」

 青と白のピッチリとしたタイツのようなスーツに身を包み、通信越しに誰かと話す少年『碇シンジ』……その横には同様のデザインだが色違いのスーツを着た少女が2人立っており、赤いスーツの少女『惣流・アスカ・ラングレー』が少年の横から割り込む。

「今、襲撃されてるのはココなんだし、離脱するにも戦闘は避けられないじゃん……だったら、あっちに協力してやった方が寝覚めも良いでしょ?

 それに、今しがた要請もされちゃったしね……」

 赤いスーツの少女が視線で合図した先には、白いスーツの少女『綾波レイ』と白衣の男が握手をしている場面であった……対抗手段についても、提供される物を使用すればリスクを最小限に抑えられると言う。
 レイは最初、返答に困った……が、何やら耳打ちされ、少し考えた後に要請を受けると言い出したのである。

「さすがに楽観なんてできないわよ、今回はEVAも無いんだし……」

「ミサトさん、それなんだけど……」

 恐る恐る切り出す通信相手の少年……先ほど白衣の男に託された物を通信画面越しの女性……葛城ミサトへと見せる。

『……きぐるみ? いやマネキンかしら?』

それは、EVAの姿を模して精巧に造られたマネキン……にしか見えない等身大の置物。
だが、白衣の男は首を振りこう語る……

「それは『i.D.(イマジナリー・ダイブ)ユニット』と言って、起動させた人間を見た目通りの存在へと昇華させる……言わば本物になれるのです。
 今回は無茶振りしてスミマセンでした赤城博士、伊吹さん……」

 男の発した名前に、驚愕して通信画面の向こうで振り向くミサト、その視線の先には平常運転の赤木リツコと、逆にテレ顔で苦笑いを隠し切れない伊吹マヤの姿があった。

「……リツコ?! ってマヤも?! アンタ等ねぇ!?」

「お二人を責めないで下さい、此方が強引に交換条件を持ち出して押し切った訳ですし……頂いたのはEVAの外見やコクピット内の実寸データ、そして操縦システムの概要だけですから」

 彼女らから手に入れたデータを元に、白衣の男は人間サイズのEVAのマネキンを作成……その中に色々な仕掛けを施し、対象者をVR空間へと転送してこれまた精巧な造りの操縦席へと座らせ、実際にEVAを操縦する感覚でi.D.ユニットを動かすという、物凄く費用や手間の掛かった物であった。

「操縦システムやインテリアの実寸はほぼ同じですし、接続先から送られる映像のスケールが違うだけで、後はほぼ本物そっくりなはずですよ」

 気になった当の3人はスーツを起動させ、背部のプラグに触れる……直後、彼らは転送され、気が付けばEVAのコクピット……エントリープラグと呼ばれる物の中にあるインテリアシートに座っていた。

『さ、3人とも……いつものように起動させてみて』

 白衣の男からの通信で促され、言われるがままにEVAを起動させる……すると。

『『『……あっ……』』』

 当然のごとく実寸を忠実に再現しているので本物そっくり、当然プラグ内部の再現も全てVRなので、シートから見える全てが実際にEVAを操縦している時と全く同じに思えたのである……外からの映像以外は。

「スーツの寸法が人間サイズだから、自分たちがちっちゃくなった気がする……」

「人間サイズの弐号機を動かすって……ゲームにしては出来過ぎよねぇ?」

「零号機と同じ感じ……違和感もないし、行けます」

 画面の向こうでミサトは大きなため息を吐き、白衣の男を嬉しいやら悲しいやら複雑な表情で睨む……内心、アークスに恩を返せるというのは良い……だが、ここまでお膳立てされた返し方では、納得の行かない事もある。
 だが当の白衣の男は、再現された人間サイズのEVAが動く姿をドヤ顔で誇る……

『ハァ……分かったわよ、出撃は許可してあげる。でも、ちゃんと無事に3人で帰って来なさい……これは命令よ?』

斯くして、人間サイズとなった
人造人間エヴァンゲリオン初号機・弐号機・零号機、参戦決定!!

外伝「異世界の剣士たち」

2020年最後に開始するこの投稿は、現実にゲームで実施された「ソードアート・オンライン」とのコラボイベントや、その他様々なコラボをネタとして利用した内容となっております。
未視聴・未プレイの方にはネタバレ・または一部理解できない内容があるかと思いますが、その辺はご了承ください。
またこの外伝の一幕が、原作のオンラインゲーム「ファンタシースターオンライン2」をプレイするキッカケになれば良いなという希望的観測も少々……w

では、特別シナリオに「リンクスタート」!!


「世間はもうクリスマスか……まさかこっちでクリスマスを過ごす事になるなんてな」

 黒衣の剣士の男が、テーブルの向かいに座る白い剣士の女性にそう話しかけた

「こっちでも、普通にクリスマスイベントってやってるのね……それに……」

 白い剣士の女性も、周囲を見回しながら黒衣の剣士の男の話に乗っかる

「『ALO』とはまた違った雰囲気があって、楽しそうだと思わない? キリトくん」

「まぁ、この世界が何なのかはまだよく分からないけど……今回くらいは地球じゃなくて、こっちでアスナと過ごすのも悪はくないな」

 キリト、アスナと互いを呼び合う2人の剣士……彼らは別の世界から、ここオラクルへとやってきた異世界人であった

“外伝「異世界の剣士たち」” の続きを読む

第19話 時を超えた再会

フォトナー、芙蓉……突如現れた謎の女性。

瀕死の重傷を負った透火の治療という形で彼女の身体に間借りしている謎の存在。
……いや、本人は間違いなく自分を「フォトナー」だと言った……

それはつまり、過去を知る存在が増えたと言う事……そして、新たな火種が燻り始めるキッカケになるかもしれない……



「……本当に、彼女(透火)じゃないのかい?」

「さっきからそう言うておるのじゃ、お主は模倣全知存在というのに随分と妾を疑っておるのぅ?」

シャオの言葉に、さも当然の反応をする透火(?)
報告書は読んだ、彼女自身の定期検査資料と比較された身体データでは特に異常は認められず、シエラ経由で該当の事象となる映像もチェック済み……だが、そのどれもが彼女を「アークスとは違う何かだ」と指し示す……

「まぁ、信じるかどうかはお主等次第じゃな、今の妾の目的はこの体の主……彼女を死なせぬよう取り計らうだけじゃ」

ケラケラと笑う少女に、面倒事が増えたとシャオは頭を悩ませる事となる……

“第19話 時を超えた再会” の続きを読む

第18話 鈴の音響かせし「芙蓉」の花

 その場に居た全員が言葉を失っていた……
アークスシップのショップエリアの空中、そこに立つ2人のダークファルス
その片方が力なく落ちていくのを、その場に居た全員は、ただ見る事しかできなかった……

『……1つ』

 ただの一言、それだけに含まれる圧倒的な怒気……
常人では卒倒しそうな程の圧力に、シナノ達は足を止めてしまう

「マ、マジカヨ……アイツ、同族ヲ……ダークファルスヲ殺シヤガッタ……!」

 龍鬼の声、驚愕を隠せない一言……
直後、未来を絶たれた方のダークファルス【嫉妬】が灰となって消えていく
もう片方のダークファルス……【災禍】は、怒気を隠さぬ顔のまま見続けていた

「透火……ヤバいぞ!? アイツ【嫉妬】に貫かれたままだ! 助け……」

ズンッ

 シナノが透火の事を口にした直後、先程よりも更に強い圧迫感が全員を襲う
凄まじい圧力に、膝を折られそうになるシナノ達……

「なんという、威圧感……!」

「このままじゃ……マズイぜ、こっちもな……」

 sukeixisuとUKAMの苦悶の声、この威圧のせいで体の動きが鈍る……
息苦しささえ感じる威圧を放ちながら、【災禍】は地上へと降り、動かない透火の傍に立つ

 辛うじて生きてはいるが、反応もなく、胴体からの出血も止まらない
何を思ったのか、無感情のまま【災禍】は透火へと手を伸ばす……チリチリと【災禍】の放つ負のフォトンが、残り火のように透火を覆うフォトンを焼き焦がしていた
それを気に留めることなく【災禍】の手が透火に触れようとした直後

ガキィィィン!!!

 透き通った金属音……瞬間移動で距離を取り、別の場所に現れる【災禍】……
そして、先程まで【災禍】が立っていた場所には、漆黒に塗られた黄金のフォトンを発する長杖が突き立っていた……

『そこまでじゃ、彩……その娘が死ぬぞ?』

 大気を伝って聞こえる音ではない、頭の中に直接響く声……どこか悲しげで、しかし絶望に負けぬ意思を感じる凛とした女性の声

「……あ、アンタは……?」

 シナノ達の間を縫って歩いて来たのは……足音の代わりに鈴の音を響かせ、薄青の花模様と要所に小さな鈴をあしらった和服姿……風の影響など関係ない様に、無重力に浮かんだ銀髪と羽衣を揺らし……気配なく歩き続け、透火の側に突き立った黒杖を手に取った

『初めましてじゃの、童よ……妾の名は「芙蓉」、お主等の言うところの「フォトナー」じゃ……よろしくのぅ』

 突然現れた独特な言い回しをする女性……自身を「フォトナー」と言った彼女は、信じられない事に、手にした扇子で場を支配する威圧感を一振りで薙ぎ払ったのだった

……?!

 これにはシナノ達だけでなく、威圧の主である【災禍】も驚きを隠せない

『彩よ、この娘は妾が預かる……異論は受けんぞ』

『……触れるな、触れるなぁッ!!』

 ドス黒いオーラを発して【災禍】が凄まじい速度で芙蓉に肉薄する……が、寸前で芙蓉の姿はかき消えた

『……ッ?!』

 気配を感じて振り向いた【災禍】の視線の先には、空中で透火を子供の様に抱き抱える芙蓉の姿があった

『……異論は受けぬ、と言ったはずじゃぞ』

 やれやれ……といった感じで芙蓉は【災禍】を見ている
【災禍】を除く全員は、その一連の出来事を唖然と見ているしか出来なかった

第17話 【災禍】、降臨

突如発令された警報……シエラの慌てふためく声……だが、その文言に戦慄を覚えないアークスは皆無であった。

« シップ内に転移反応! これは……ダークファルス?! »

10番艦ナウシズのアークス専用区画、その一角に……まるで黒いシミの様な空間の裂け目が発生し、徐々に広がって漆黒の少女が姿を表した。
小柄な少女の姿をした闇、そんな表現が相応しいだろう……だが、少女の姿をしていても、その心は闇そのものである。

『……ここか、奴らの巣窟とは……どうも不思議な感覚だな……』

そう口にした少女……だが、言葉とは裏腹に、おもむろに手を翳すと、凄まじい負のフォトンが寄り集まって球体となり、凝縮された破壊の嵐が周囲に吹き荒れた。

駆けつけたアークスがそれぞれの得物を手に迎撃を始めるが、少女はそんな攻撃など意に介さぬとばかりに無視し続けた。
それもそのはず、アークス達の攻撃はその尽くが少女に届く前に爆発、あるいは霧散していき、例え届いたとしてもその体表に触れる直前で軌道を逸らされるか、もしくは受け止め、受け流され、ろくなダメージなど全く入る気配など皆無……まるで見えない壁に全てを阻まれている……状況的にはそんな様子だった。

「くっそぉ……なんで攻撃が通らない?!」
「バリアーか? なんて強度だ……これじゃ足止めにすらならんぞ?!」

悪態を付きながらもなお攻撃の手を緩めないアークスに業を煮やし、少女は右手を掲げ何やらブツブツと唱え始める……その様子に気付いたアークスの1人が叫んでいた

「備えろ! ヤバいのが来るぞ!!」

『全てを消し去る事こそ我が望み……消滅せよ、忌まわしき者共よ』

その言葉とともに放たれたフォトンの渦は、瞬く間に周囲一体を飲み込んでその全てを砂へと変えていった。

“第17話 【災禍】、降臨” の続きを読む

第16話 時の流れに揺蕩うもの

『……♪~……』

 惑星アムドゥスキア……
表面が溶岩地帯だらけの球状核と、強烈な地磁気によって浮遊する大陸に別れた歪な形状の惑星……その浮遊大陸の1つに、風にのって歌声が響く

 その歌声は、どことなく哀しみと切望に満ちた声だった……

 歌声の主はタイトな黄色いボディスーツに黒色の簡素な部分装甲を申し訳程度に取り付けられた「ゼルシウス」に身を包んだ青髪の少女だった

「……分かってるわ、こんな事したって慰めにもならない事なんて……」

 少女は一人呟く……だがその少し後、ドップラー効果で響いてきた悲鳴に、青髪の少女は警戒の構えを取りながら振り向いた

「……ぁぁぁぁぁぁっ、とおっ……あだっ!?」

 落ちてきたのは、自分と同年代……か、少し年上らしい顔立ちの、ド派手なピンク色の髪をした女性……見たことのない長杖を手に、地面に激突寸前放ったテクニック「ナ・ザン」で衝撃を和らげた事から、度胸と実力はあるアークスだとすぐに分かった……だが、角度と姿勢が悪かったのか……ナ・ザンを放った反動で体が空中で前転し、結果尻もちを付くように回転しつつ1m程の高さから無抵抗のまま落ちたのである。

「……貴女は、確か……」

青髪の少女は落ちてきた女性に見覚えがあった……

「……ったぁ……え、ちょ見られてた?! って、貴女は……」

落ちてきた女性にも、青髪の少女に見覚えがあったようだ

「……六芒均衡の……零番さん……?」
「あの時、MRSを運んでいた人……?」

 かつて、ダークファルス【嫉妬】襲撃の際にピンク髪……透火が戦闘ヘリのパイロットに頼み込んで乗せて貰い、渡すべき物を運ぶために飛び立とうとした際、ダーカーの強襲に遭遇、そこを偶然移動中だった六芒の零・クーナが横槍を入れてヘリは無事に飛び立ち、窓からお礼を言った透火と、ヘリを見上げたクーナは互いの特徴を覚えたのだ……最も、今の透火の服装は当時の「セラスアリシア」ではなく、両手のプロテクターを外したカスタム仕様の「バリスティックコート」だったが……
 そして透火がクーナを六芒と知ったのは当時ではなく、後で詳細をシエラに問い合わせたからである。



「……あはは……お久しぶり、みっともない所見せちゃったけど……」

「いえ……、そちらもお元気そうで」

「……皮肉?」

「違います(キッパリ)」

 しかし、クーナは内心穏やかでは無かった……さっきまで歌っていたのを聞かれたのなら、自分に疑いが向かない内に退散したかったからだ。
 いくら過去の事と言っても、この姿と今のアイドルとしてのクーナが同一人物であると知る人間は少ないほうが良い……だが、世界はそういう事情に厳しかった

「……さっきまで歌ってたのって、誰かを想って……?」

 嗚呼、この世界に神は居ないのか……

「……黙秘します、そしてこの件は他言無用です。」

 ピシャリと切り捨てるクーナの言葉に、地雷踏んじゃったかな……と透火はバツの悪い顔をして頭を掻く……だがすぐに表情は憂いたような顔に変わり、先程までクーナが座っていた岩へと座ってため息を吐くのだった

「それよりも……貴女は、何故こんな場所に?」

「妹がね、行方不明なの……この前の襲撃で……何処も探したけど見つからないのよ」

 一連の行動に少しだけ興味を惹かれたクーナは、透火に聞いてしまった。
透火は、振り向かずに答えを返す……この前の襲撃と言えば「新生DF勢」が4番艦アンスールを襲った事だとクーナはすぐに気付いたが、同時に不可解な点も見付けてしまう……何故、行方不明なのか?

 襲撃に遭っただけなら、死亡扱いないしは負傷で入院など、行き先は決まって居るようなもの……例え瓦礫に埋もれたとしても、既に襲撃から1周間は経っている為、生存/死亡に関わらず発見はされているはず……

 だが、彼女は「行方不明」と言った……それは、六芒と一部関係者にのみ知らされた事実……それに該当する事象に、彼女は関係あるという事だ。

「……そうでしたか、彼女の保護者が貴女だったのですね。」



 それから、お互い何を思ったのか……自身の悩み、境遇、普通なら話せる筈のない事を相手にどんどんと吐き出してしまい、最終的には互いの過去を洗いざらい吐き出し合った仲として、何やら友情的なものが芽生えていた……

「……やっぱり、あの歌はハドレット……この子の為だったんだね」

 透火は再び違和感のある言動を発する。
この子……まるで彼の姿を現在進行系で見ているかのような口ぶりだった……透火はさも普通の事だと捉えているが、普通そんなものが見えたら例外なく発狂モノである。

 透火はこの星の空気に、微かに漂う存在感……歪な魂を持つが故に転生できない魂だけの存在……ハドレットを確かに感じていた。
……それは「概念知覚」とも言うべき能力。

 本来、生物の五感……「視覚」「聴覚」「触覚」「嗅覚」「味覚」の5つはそれぞれ固有の認識方法によって物事を認識し、存在を感知する。
 中でも、ヒト種は五感による認識の殆どを「視覚」から得ているのは言うまでもない。

 だが透火の五感には、ちょっとしたオマケが付いているらしい(本人談)。

 シャオの見解は、それは本来アークスが持つフォトン感知能力の拡大版……フォトン感知能力はほぼ「触覚」(本作での設定)に近く、距離とエネルギー量という基礎概念によって、その感知度合いの個人差は非常に激しい……そして透火のフォトン感知能力が他より少しだけ「その方向に優れているから」との事。

 透火は目に見えないハドレットの魂を、その五感で感じていた。
彼女にとってそれは当たり前の感覚……しかし、他人にとっては「霊感」とでも言うべき超感覚だ……クーナは半信半疑ながら、ハドレットの所在を確認した。

「……まさか、アイツはココに……?」

「うん、ずっと貴女の歌を聞きたくて、いつもココに来てるんだって……」

 魂から直接伝わる情報はヒトにとっての「声」と同じく耳に伝わり、言葉の壁すら安々と超えて響いた……それはそれで衝撃的な事だったが、クーナにとってはどうでもいい事だ……アイツが私の歌をまだ聴いてくれている、聴きたがっているという事を認識させてくれた……その声を私自身が聞く事は出来ないが、その心は確かに伝わった。
 クーナの眼からとめどなく涙が溢れ、僅かながら紅潮した頬を流れ落ちていく……

 透火の眼には、今にも泣き崩れそうなクーナを大きな掌で支え、恐ろしい見た目の巨躯に似合わぬ優しさを発揮する、白い巨龍の姿が映っているのだった。