序章3 神をも下す悪意

「…やれやれ、お主らは「しょうかいにんむ」とやらで来ておるのであろう?
見ておればさっきから痴話喧嘩やら夫婦喧嘩の様な事ばかり……お主ら、暇なのか?」

手に持った扇子をパチリと閉じ、半ば呆れ顔を浮かべつつ目の前のアークス二人にツッコむ少女
彼女こそ惑星ハルコタンの神にして灰の巫女「スクナヒメ」だ

「痴話喧嘩って、コイツとはそんなんじゃねぇよ?!」
「夫婦喧嘩って、まだそんな関係じゃないわよ?!」

そしてそのツッコミに寸分の時間差なく反論するのは六芒均衡の四「ゼノ」とその幼馴染の「エコー」

「妾の前でなくとも、そんな痴態を目の前で見せられれば、呆れられて当然じゃな。」

慌てて体裁を繕うゼノとエコーだが、もう遅い
精神的ダメージを受けつつも、哨戒に戻る2人を見つめ…スクナヒメは思った

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序章2 空を覆う暗雲

- 惑星ウォパル 海底エリア ルーサーの研究施設 -

「・・・さて、残る準備は・・・」

人影が一つ、暗がりに紛れたままつぶやきを漏らす
かろうじて判別できたそのシルエットは女性・・・しかし、ココは一般人など入れる場所ではない
その女が見つめる先には一つのカプセル、中には一糸纏わぬ姿で杖を抱く銀髪の少女が眠っていた

「こちらの準備は全て整った・・・
残るは『アレ』へのお膳立てと『鍵』の奪取、そして・・・」

影は一瞬にして醜く歪み、次の瞬間には違うシルエットになっていた

「そろそろ、目障りなあの2人には退場して貰おうかしらね」

独特な雰囲気と声を残し、謎の女は闇に溶けてかき消えていった

- 惑星アムドゥスキア 龍祭壇エリア 最奥神殿「ロ・カミツの間」 -

彼女は唐突に悟った…何を? この場を覆う異様な気配?
違う…この星、惑星アムドゥスキアの全体を覆う程の規模だ
この気配は…ダーカー?
否、似てはいるが違う…アレはもっと禍々しい…この感じは…恐怖?
いや、これは悲しみだ…慟哭と言っても良い いつから?
いや…これほどの気配に今まで何故気付かなかった?
龍族の長「ロ・カミツ」は逡巡を繰り返すが答えは浮かばない
いや、答える事はできないだろう
何故なら、彼女の思考はその瞬間のまま、停止させられているからだ

「さて、残る邪魔者は…あのアークス共か…まぁ、アレには使い道があるから、頭だけは止めておくとしましょうか。」

宇宙と見違えそうな黒服に血のような赤いライン…
まるでダークファルスを思わせるような服に身を包む女が一人、不敵な笑みを浮かべる
そして、近付いて来る気配の主に悟られる前に、その姿を虚空へ消していった
そしてそれは猛スピードで空から舞い降りて…いや、落ちてきた

[カミツ様~!!]

落ちてきたのは、透き通るような水晶を全身に纏う巨大な龍…クォーツドラゴンと呼ばれる龍族…
その巫(かんなぎ)である「コ・レラ」であった
仕えるべき主であるロ・カミツへ迫る異様な気配を察知し
最速で駆け付けたのだろう
しかし、応えは帰ってこない…

[…?][カミツ様?][如何がされましたか?]

再度の呼びかけにも、ロ・カミツは応えない…否、応えられないのだ
あまりの事態に呆然とするレラ、しかしそれも数瞬
この場に残る忌々しい気配を感じ、その心当たりを探り始めた…いや、答えはすぐに出た

[これは…][ダーカーの気配!?][…忌々しい][よくもカミツ様を!!]

彼女はその足取りを掴もうと必死に気配を辿るが、すぐに諦めた
懇意にしているアークス「アキ」から、ダークファルスは空間転移が可能であり
どれだけ重点的に追跡してもすぐに撒かれてしまう、と聞かされていたからだ

[コのレラよ][一体][どうしたというのだ?][カミツ様は…]

周辺の警戒をしていた他の龍族達も、異様な気配とレラの声に気付き駆け付る
そして物言わぬまま呆然とするカミツと憤るレラを見つけたのだ

事態を飲み込めぬまま困惑する龍族たち…その中をレラは再び舞い上がり、
ある場所へ急いだ

[コのレラよ][何処へ行く!?]
[カミツ様は一体][如何なされたというのだ?!]

レラはその声に短く応えた

[アークスの][元へ行く!]

全速で青空を駆けるレラ、その頭には面識のある何人かのアークスの姿が浮かんでいた

[アークス…][アキや][あのアークス達ならば]
[カミツ様を][救ってくれるはず!]

己の限界を超えそうな勢いで、レラはある場所へと急ぐ

アークス達と語らう為に自らが選んだ「あの場所」へ

- 浮遊大陸エリア「魂の眠る地」-

彼女は歌っていた、かの龍の為に…「あの時」を忘れない為に
風に流れる美声の主は、遠巻きながら周辺に佇む巨大な龍たちから見れば小さい…
彼らは、ここ「テリオトー」に棲む屈強な龍族たちだ

以前は自分たち以外の種族の出入りを頑なに拒否し続けていたが
火山洞窟に棲む火龍ヒ・ロガを救った事やこの近辺に出たダーカー撃退に協力した事で態度が軟化を見せ始め
今では襲われる事も少なくなり…時折歌いに来る彼女の歌を黙って聴いている者も増えていた

[やはり…][幼子たちの話は][真実だったか]

歌い終えた彼女に1体の龍族が歩み寄ってくる…
周りの龍族とは違い、その身体は褐色…杖を持ち、首には黄色い鉱石の様な結晶が見える
浮遊大陸由来の龍ではない…下に広がる火山洞窟由来の龍なのだろう

[貴方が][クーナか][我が名は][ヒのエン]
[…実に良い歌であった][この地の魂も][安らぎを得ただろう]

「ありがとうございます…龍である貴方にそう言って頂けるなら…こうして時々、歌いに来ている甲斐がありますよ。」

クーナは少し恥ずかしそうに照れ笑いを隠しながらも素直に礼を言った
龍族の表情はほぼ変化しないが、雰囲気では賞賛に照れているのを見て和んでいるようにも見えた

[そうか][かの龍][ハドレッドは…][そなたの弟か]

例の「暴走龍」を思い出すエン
ハドレッドは幾度となく、テリオトーでも目撃された事があった
しかし、その真意を知る由もなく…その場に現れていたダーカーを喰らい尽くし、その姿を消していた
その後をエンは知らないが、彼女の雰囲気から死んだという事は感じ取れた

「…あの時を、あの子が救われたあの瞬間を忘れない為にも…」

[その先は…][言わずとも良い]

「…ありがとうございます。」
しばらくの静寂、そしてそれを破る轟音…その轟音の主はすぐ側の地面に身体を突き立てていた

[クーナ!][此処に居たのか!][カミツ様が…]

「…落ち着いて、ロ・カミツがどうかしたのですか?」

[…少しは冷静になれ]

クォーツドラゴンの巨体で慌てられては事情を聞く事もままならない
エンはそう考え、レラの鼻先(?)を杖で殴った

[痛い…][何をする?]

[その体躯で][ただ慌てるだけでは][何も進展しない][冷静になれ]

年長者に諌められ、平静に戻り反省するレラ

[では聞こう][カミツ様が][如何なされたというのだ?]

[そうだ][カミツ様が…]

突如感じたダーカーの気配に焦燥感を覚え、急いで神殿へ来たが
時既に遅くロ・カミツは消えぬまま物言わぬ状態となり、周辺にはダーカーらしき気配の残滓
原因を起こした犯人の姿は既になかった
事を全て伝え、気が気でないレラと対象的に、エンはクーナと冷静に状況を分析していた

[どうなっているかは][分からないが]
[おそらくカミツ様は][惑わされているのではないか?]
[それ故に][我らの声も][届いていないのだろう…]

「…そんな事が出来るのは、ダークファルスに間違いないでしょう。
どんな手を使ったかは分かりませんが…。」

そういう事に詳しい研究者でもない人間と龍族では、そこまでが限界であった
しかし、不意に呆れた声が直ぐ側から聞こえてきた

「おいおい、私の存在を忘れてはいないかな?」

祭壇からの分かれ道へと続くルートから歩いてきたのは白い「タイガーピアス」を纏った黒髪の女性……赤縁メガネが特徴的な「生命の神秘」を研究する博士にしてアークスでもある「アキ」だった
その後方には助手のライトがヘタりながら走ってくるのも見えている

[アキ][それにライトも…][来てくれたのか!」

親しい友人との再開に声が弾むレラ、アキも笑顔で接するが、状況は芳しくないのは明らかだ

「途中から姿は見えていたよ。…近付く途中で気になる事を言ったのが聞こえてね」
「…だからって…先生、僕を…置いて行かないでくださいよ…はぁはぁ。」
「文句をいう暇があるなら頭を働かせ給えライトくん。
ロ・カミツが同族への返答にすら満足に出来ないという状況…さすがに楽観など出来ないからね。」

研究者にしてアークスというが、助手の息切れに対し平然と会話を続けているアキ…一体どうなっているのだろう
カミツとは別の事でも、気になってしょうがないレラとエンであった

序章1 とある少女の憂鬱

- 旧マザーシップ中枢部 -

 

「・・・馬鹿なぁ・・・っ!? ・・・何処に、どこに間違いが・・・ッ!」

崩れゆく空間の中に響く、あのヒトの声・・・私は今でも時々、あの時の光景を夢に見る
・・・崩壊していくダークファルスの巨体、声の主は史上最後のフォトナーとしてアークスを動かしていた・・・否、支配していた闇だ

私はあのヒトの声を、ずっと前に聞いた事がある・・・でも、何時なのかは思い出せない・・・

 

- アークスシップ4番艦:アンスール ショップエリア-

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