第10話 伝説は塗り変えるもの

« フフフ…我が力に平伏せアークス共! »

「戦闘体」へと姿を変えた【憤怒】が吠える
その声は後方援護に徹していた一部のアークス達に対し、底知れない恐怖を想起させていた

「…勝ち目なんて、あるのか…?」

「あんな化け物、勝てっこないぜ……」

「クソッ、体の震えが止まらねぇ!」

「いけませんね…そろそろレギアス達の援護に回りたいですが、こうも想定外の事態に見舞われると…!」

カスラの表情がわずかに歪む、あれほど巨大だった【憤怒】の完全体が突如としてかき消え、同時に大量の瘴気ダーカーも姿を消している
しかし、周囲に漂う息が詰まるほどの強烈な存在感と威圧感、そして絶望感は微塵も減っていない
先行したレギアス達の安否を気遣いながらも、カスラは残存戦力を再編成し直すべく各部隊の状況把握に務める他無かった

その時、上空を1機のキャンプシップが駆け抜けていく
機体の側面には「混沌に戯れし双子の亡霊」のシンボルが描かれていた

(…あのキャンプシップ、どこかで見覚えが…。)

上空を駆け抜けるキャンプシップに気付き、クーナは上を見上げる
見覚えのあるシンボルが描かれたキャンプシップ、記憶の片隅にあったその既視感に思い当たったのは、運ばれた中身と遭遇してからであった



その頃、【憤怒】と戦う最前線では……

« クッフフフ…よもやこの程度ではないであろう?
  もっと抵抗してみせよ、つまらん小細工など我には通用せぬ、さぁ! »

「チッ、冗談はその見てくれだけにしとけよっ!」

レギアスとヒューイ、そして遅れて合流したシナノ達の協力もあって相当なダメージを与えたはず、しかしながら未だに余裕の笑みを崩す事なく、「憤怒」はもっと楽しませろと豪語する

「ジリ貧だな、こりゃあ……」

「フン、嘆ク暇ガアルナラモット奴ニ攻撃シロ!」

思わず弱音を漏らしたUKAMを龍鬼が叱咤する
だが、いくら攻撃を与えても「憤怒」の笑みを消すことは出来ず、徐々にこちらの損耗が増えていくばかり……

「だが、奴とて無傷ではない…皆、ここが正念場だ!」

レギアスの言う通り、「憤怒」の体のあちこちには甲殻のひび割れ、皮膚組織が剥がれ抉られた傷などが無数に残されてる……態度こそ余裕を貫いているが、確かにこれまでのダメージは間違いなく蓄積されている、あの余裕の態度を崩すには何か、もっと強力な決定打が必要なのだろう

「ココまで骨のある奴と戦うのは【巨躯】以来だぜ……
 だが奴は倒せた、ならばコイツも倒せる!」

覇拳ワルフラーンを握り直して叫ぶヒューイの開き直った言葉を皮切りに、全員がそれぞれ武器を構え直して「憤怒」を睨む……
同じタイミングで、「あのキャンプシップ」が正に「憤怒」の頭上の上空に差し掛かり、2つの光を落下させていたのだった

« おまたせしましたっ! 増援第2団、到着です!! »

唐突に通信から聞こえるシエラの声、それと同時に【憤怒】目掛けて無数の遠距離攻撃が上空から降ってきた

「これは……?!」

攻撃は砲弾とテクニック、それにいくつかの斬撃と種類はバラバラ……しかしジリジリと【憤怒】の展開する障壁を徐々に削っていき、ついに耐えきれず崩壊した

« …ヌゥ、小賢しい手を…! »

僅かながら苦悶の色が見える【憤怒】の声、その声は上空から降りてきた3人に向けられていた

「…コイツが、新たなダークファルス…!」

「もうコレ以上好きにはさせないニャ!!」

「2人とも気を付けて! 迂闊に動くと危険だよ!」

先程の攻撃の主……黒い装甲に金の装飾、キャストボディに換装しフル装備モードの瑠那と鉢巻に水色の羽織装束、和風コーデ姿の眞那、そして白い鱗が淡く輝くフルドレス姿に飛竜をあしらった杖を持った透火だった

「透火と双子コンビか! 助かる!」

「フン…遅カッタナ、チビ共。」

「誰であっても増援はありがたい!」

シナノ達の表情も、見知った顔の増援に思わず笑みが一瞬だけ溢れた
しかし【憤怒】への警戒は解かず、レギアスやヒューイも臨戦態勢を維持している

「……師父、すみません。」

透火もすぐにレギアスの側で抜剣に持ち替えて構えつつ、レギアスの顔色を伺う
レギアスも一瞬だけ声の主を見やり、厳しくも優しい声色で返事を返した

「良い、今は此奴の対処が先決…これまでの修行の成果、見せて貰うぞ。」

「……はい!」

返事と共に透火は抜剣を構え直し、全員で【憤怒】を取り囲む

« 小癪な…が所詮は烏合の衆! »

そう叫ぶと同時に裂帛の気合で軽々と全員を吹き飛ばし、さらに背中から2本の腕を生やし、合計4本の腕を使って怪しく光る光球を生成し始めた

« 【憤怒】のフォトン係数が急上昇中! しゅ…周囲一帯ごと此方を跡形もなく吹き飛ばす気です! »

赤紫に怪しく光る光球は徐々にその大きさと圧力を増していく……
六芒やシナノ達も直後に態勢を立て直しすぐさま全員で妨害に出るが【憤怒】は手傷などまったく気にする事なく、大きさは更に増していく

「……ッ!!」

ふと、レギアスは背後から迫る膨大なフォトンの気配に意識が向いた
その気配の主は黒に金の装飾が入った防具を纏い、金の角と赤い複眼が特徴的な仮面を付けていた

「ハッ…でりゃぁぁぁぁあ!!」

右足の足跡は炎の輪郭を残して炎上し、そこに込められた尋常ではないフォトン量を物語っている、そして仮面の人物は走ってきた勢いのまま飛び上がり、その燃え上がる右足で【憤怒】へと飛び蹴りを繰り出した

« ヌゥゥゥ!? »

想定外のフォトン量を纏った飛び蹴りに、直撃を受けた【憤怒】の声色が明らかに焦りだす、レギアスとヒューイはすぐさま好機とばかりに妨害を再開、シナノ達も僅かに遅れて態勢を立て直し、自身の持つ最高威力の攻撃を連発した

« えぇい…忌々しいアークス共が…ぁ…ッ?! »

黒仮面の凄まじい飛び蹴りに加え、全員の総攻撃で態勢を崩されて光球は暴発し、余波の直撃を自らの全身で受け止めてしまった【憤怒】
自身の最高威力の攻撃を破られ、その上多数の妨害攻撃と暴発の余波の直撃……
さしもの【憤怒】も満身創痍の様相で片膝を付き、苦しげに呻く

« ……あら、【憤怒】がここまで手傷を受けるなんて珍しいわね? »

ふと響いた声、片膝を付く【憤怒】の頭上に突然現れた黒い影……
それは以前、4番艦アンスールを襲撃した黒女だった

「ッ?!」

« ……何をしに来た、【嫉妬】。»

« あら、誰かさんの悔し顔を見に来ただけよ?
  ここでコイツ等と殺り合っても、アタシには何の得にもならないもの。»

さらなる敵の増援、【嫉妬】と呼ばれた黒女もダークファルスだった……
レギアス達は身構えるが、当の【嫉妬】本人は素知らぬ顔で興味なさそうに返事を吐き捨てた

「ココに来て敵の増援、しかもボス級とか…マジで勘弁して欲しいぜ。」

ここまでの戦いで疲労困憊に近いシナノ達の恨み節
しかし、【嫉妬】の態度は変わる事なく、アークス全員を無視したものだった

« あぁ、【怠惰】から伝言が一言あったわね……
   「網は置いたが獲物は来ず、さらなる手を求む」だったかしら? »

レギアスとヒューイを始め、アークス全員に戦慄が走る
再度飛び出た新たなるダークファルス…その3体目の名前…『深遠なる闇』をどうにか押し留め、取り込まれた【仮面】の時間遡行に頼った水際阻止で精一杯の現状、新たなるダークファルスの出現は否応にでもアークス全体の士気に関わる・・・しかも今回の件だけで3体も出現したという事実は、現状を悪化させるには過分にも程があるだろう

「…ぬぅ…まさか3体目とは…。」

レギアスの声にすら、明らかな焦りの色が見える
ヒューイこそ表情は普段通りながら、内心は驚愕の一言に尽きるであろう

« …フン、【怠惰】の策も外れたか…【色欲】といい奴といい、所詮は力無き者の考える事よ。»

« そういうアンタも、この人数に負けてるとかたかが知れてるんじゃないの? »

【憤怒】に対し挑発的言動を隠さない【嫉妬】だが、当の【憤怒】は気にすることもなくレギアス達に向き直りこう言い放つ

« 決着が付けられぬのは些か口惜しいが、楽しみは取っておこう…せいぜい余生を楽しむが良い、クフフフッ! »

そう言い残し、【憤怒】は跡形もなく消えた
【嫉妬】も随伴したのか一緒に消えていた……

画してダーカーの巣の唐突な出現に始まった一大攻勢は、新たに出現したダークファルスと交戦するも、敵の自主的な撤退によってあっけなく幕切れとなった

数日後、アークス上層部は新たなるダークファルスの出現を正式に認定
稼働試験中だったMRSプロジェクトも再評価と支援の声が集まり始め、六芒均衡全員も賛同、推進派が大多数となり上層部も本腰を入れる事となった

「……と、言う訳でその適合者探しと製造体制に上層部の援助が入る事になったんだけど…」

通信越しにシエラ、そしてMRS計画主任責任者となったトリニティと草案に付いてウルクは途中まで口にしたが、それ以上は言葉に詰まった

« どうしたんですか、ウルク司令? »

「……その…MRSって何なのかな?」

直後、通信越しに盛大な転倒音とツッコミが入ったのは言うまでもない




次回予告

唐突に幕切れとなった一大攻勢……新たなるダークファルスの出現も相まって
状況は確実に悪化の一途を辿っていく
一方のダークファルス側も想定外の事態が起きており
修正と対処に追われていたが
その影で暗躍を続ける【傲慢】は
単独で本懐を遂げようと「ある作戦」を実行に移すのであった

次回、PSO2-ACE  第11話 運命

時に逃れられぬもの、そして覆せぬもの……
迫られし時、人は何を思うのか

次回更新は12/25の予定です、お楽しみに♪

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