番外編「アークスの年始事情」

※ このサブストーリーは外伝小説版のエピソード4終了後を描いたものです。
  その為、本家では本来登場しない人物及びその後の展開など、筆者の妄想を
  小説版と同様に詰め込んだ作品ですので、本家の展開と混同しないよう注意
  して閲覧して下さい。

マザー・クラスタとアースガイドという2大勢力の地球における覇権争い(?)も終息し、地球では「新年」を迎えていた。
オラクル側でも、過去に密かな交流が行われていた際に暦や時間軸などの基礎知識や情報などもほぼ同一であった事から、本格交流が始まって間もなく、地球における季節的な行事の概念や仔細などの情報も共有され、同じく新年を迎えていた。

これは、そんな時期におけるアークスと地球人が織りなす「年始」の様子である。

「新年、あけましておめでとうございます。」

« おめでとうございます~、
  去年はなんだかんだで凄い1年でしたけど、無事に年を越せましたね。»

通信越しに赤髪の少女とシエラが笑い合う
赤髪の彼女の名は「八坂火継」、オラクルとは異なる次元に存在する惑星・地球に住まう異世界人であり、アークスの協力者の一人である
彼女を含め、この地球には「アークスの協力者」が多く存在し、経緯こそ其々に異なるが、全員がアークスと好意的な関係を築いていた

「ホント、いざ振り返ってみると我ながらよく生きてたなって思ってるわよ。」

これまでの出来事を軽く思い起こし、苦笑交じりの微妙な表情で言葉を返すヒツギ
確かにこの一年、彼女にとっては途轍もない出来事のオンパレードであった

これまで「ただのゲーム」としてプレイしていた「PSO2」が実在する別の宇宙だったという事実……そして人々の恐怖心や負の感情から発生し、周囲の知的生命体を見境なく襲う超常の存在「幻創種」……自分たちを庇護してくれる存在であった組織「マザー・クラスタ」とその対抗組織である「アースガイド」との抗争

そして、地球ごと宇宙そのものを創り変えんとした「幻想造神」との決戦……
本来ならば、普通の女子高生である彼女にとって、起こり得るハズのない体験だ

« でもヒツギさん達が居たからこそ、あの問題も解決できたと私は思ってます。»

ヒツギは素直に頷いてはいたが、その表情は少し苦いままであった
確かにヒツギたちの存在がなければ、アッシュを始めとするアークス達は地球へ干渉する事すら出来ず、ただ黙って地球文明がデウス・エスカの手によって再構築されていくのを見ることしか出来なかった

しかし、当のヒツギは実際にアッシュの傍で肩を並べて戦っては居たものの、戦闘そのものにおける経験値が圧倒的に違うアークス達との中で浮いているのは間違いなかった……しかも、前生徒会長だった「知人」はアークスとしての記憶と知識・そして秘められた能力を途中から覚醒させ、序盤とは比べ物にならない程の活躍をしてみせた

当然ながら地力から何から違うアークスと地球人では、能力を比較すること自体がまず間違っているのだが……

« シエラの言うとおりだ、俺達がヒツギ達を助けられたのも、君達が一緒に戦ってくれたからこそ、だしな。»

シエラの隣から通信に入ってきたアッシュも、ヒツギが居たから頑張れたと告げる
今ひとつスッキリしない表情のヒツギだったが、後ろからの聞こえてきたノック音に気付き、慌てて表情を繕う

「お姉ちゃんただいまぁ~! すっごい人多かったよぉ~♪」

「ただいまヒツギちゃん、意外とコンビニは空いてたから日持ちするお弁当とかも幾つか買っておいたよ~。」

部屋に入ってきたのは複雑な経緯を経てヒツギの弟になった少年「アル」と、ヒツギの親友で同じくアークスの協力者でもある同年代の少女「鷲宮氷莉」だった

« お二人で外出してたんですね、あけましておめでとうございます。»

« あけましておめでとう、アルは少し背が伸びたんじゃないか? »

「シエラさんにアッシュさん、あけましておめでとうです。」

「あけましておめでとうございます……ホント? ボク背伸びてる?」

画面に映るシエラとアッシュに気付き、アルとコオリも通信越しに挨拶を交わす
ようやく役者が揃ったと見極め、シエラは待ってましたとばかりに話題を振る

« さて、これから3人でオラクルに遊びに来ませんか? »


(以下、2020/01/15追記)

「……え? これからですか?」

« 勿論です♪ 地球でいう「挨拶回り」と言う名目でシャオにも言質と了解は取ってありますし、オラクル側の新年の様子を「本場の目」という奴で確かめて貰いたいってウルク指令も言ってましたから。»

3人にとっては突然の提案だったが、断る理由はなかった
このまま地球に居たとしても、いつもの顔見知りへの挨拶回りくらいしかする事がない、それに引き換えオラクルへ行けば、新年の挨拶回りという名目だけでなく、シエラの言う「オラクルの新年の様子」をこの目で確かめ、体験する事もできる

日本人としては失礼な意識だが、新年早々から面倒そうな行事と、さほど日常と変わらない数日間よりかは有意義かつ楽しく過ごせるのではないだろうか

「行く行く! 良いよね、お姉ちゃん♪」

「行こうよヒツギちゃん♪」

「……しょうがない、3人でお呼ばれしよっか!」

« ふふふ、分かりました。次元転送の受け入れ準備に少し時間が掛かりますし、その間に地球側でしかできない準備と、居残り組へ連絡しておくと良いですよ。»

シエラの提案に頷き、早速準備に取り掛かるヒツギ達
いつの間にかヒツギの表情も明るくなり、通信越しに見ていたアッシュ達も安堵の表情を浮かべていた




- アークスシップ内部・外部連絡用転送施設 -

地球との交流が活発化し、大々的に連携や作戦などを考慮した結果
キャンプシップに使われる惑星間転送システムを応用した地球との長距離次元転送システムが考案され、専門の転送設備を擁する施設が一部のアークスシップに実装されていた

シエラ達との通信から程なくして、ヒツギの部屋を転送元とし、この施設へ転送されてきたヒツギ達……彼女たちを待っていたのは3人にとって意外な人物であった

「……来たか、八坂火継、鷲宮氷莉、そしてアル。」

「なっ、マザー?! なんでココに居るの?!」

ヒツギ達3人を待っていたのは、かつてのマザー・クラスタの首魁……
そして新生マザー・クラスタ代表、兼・アースガイドの長でもある「模倣全知存在(アカシックレコード)」、幻想聖母ことマザーであった

「お、お久しぶりです……マザー。」

「わお、マザーも来てたんだ。あけましておめでとうございます。」

「うむ、あけましておめでとう。
 ……して、そちらの2人はどうしたというのだ?」

何となくバツの悪い雰囲気になるヒツギとコオリ、対象的にアルだけが何気にちゃっかりと新年の挨拶をマザーと交わしていた

「え? あー……いや、何ていうか……前にあれだけの事やった相手だし……ね。」

「言葉にできないなんかメチャクチャ微妙な感情とか空気というか……。」

歯切れの悪い言い訳で追求を逃れようとするヒツギとコオリ
対するマザーは不思議でならないという表情を浮かべ、アルと顔を見合わせていた

「……っていうか、マザーがコッチに居るっていうことは……。」

「うむ、姪孫の提案なのだ……此方で新年を迎えてはどうかと言われてな。」

どうやらマザーもシエラからお呼ばれという形でオラクルへ来ている様子だ
マザーとシエラは、生まれた経緯はかなり違うものの、同じ「全知存在」シオンを始祖とする全知存在の模倣体であり、シオンの類縁……
家系図的に言うならばマザーはシオンの長女、シエラはシオンの末弟であるシャオの孫娘となるため、マザーはシエラを「姪孫」と呼んでいるのだ

(なお、ゲーム本編でシエラの「姪孫」扱いは前提の条件として『シャオはシオンの弟であり、シエラの祖父』という状態でないと本来は成立しないのだが、シオンとシャオ、そしてシエラという三者の関係が微妙な曖昧さを含んでいるため、本編では一切言及されていない……。
なお、この小説内ではトリニティがシャオの養子として存在し、彼がシエラを製作したという設定になっている為、普通に問題ないのである。)


(以下、2020/01/22追記)

「お待たせしました、シエラも到着です!」

マザーとの合流からそう間をおかず、シエラもゲート前に到着する
季節感漂う晴れ着を身に纏う彼女の姿に、それぞれ羨ましさや感心の表情が見えた

「着付けに慣れなくて……透火さんにまた手伝って貰ってようやくです。」

どうやら自分ではまだ上手く着付けが出来ず、地球の文化と知識をよく知る透火に着付けさせて貰ったらしい

「睦月先輩、普段からコッチに居るんですか?」

「はい、以前の件で『こちら側』に居た頃の記憶が戻ったのは良いんですが、地球側で天涯孤独の身という状態は変わらない為、親類というか義妹さんが居るこちら側へ定住することになりまして……。」

「義妹さんがオラクルに居るんですか?!」

驚きの表情を見せるヒツギ、対してコオリは「あ~やっぱり」といった顔をした

「あれ、ヒツギちゃん聞いてなかったの?」

「聞くも何も、私と睦月先輩って生徒会以外に接点ないもん。」

ヒツギの言う睦月先輩……そしてシエラに着物の着付けを教えた透火という人物
その2人は同一人物であり、過去にオラクルで起きた『再臨せし徒花』事件において生死不明となるも、ヒツギ達の通う天星学園高等部の生徒会長『睦月透火』として記憶を失って生きていた。
その後、アッシュとヒツギが幻想種に襲われたのと同じ頃から徐々に記憶が戻り、学園の同期でもあったヒツギの兄、八坂炎雅を通じてオラクルへと帰還していた

「……立ち話はそこまでにせよ、アルが退屈しているぞ?」

「ご、ゴメンねアル! シエラさん、そろそろ行きましょう!」

「そ、そうですね! それじゃあ行きましょうか!」

マザーの言葉にハッとし、取り繕おうとするヒツギ
話題を振ったシエラも少々バツが悪そうに照れ笑いしながら先導し始める
退屈から一転、この先にあるモノに対しての期待を胸に膨らませながら、ヒツギとコオリの後を追うアル……そしてその光景を一歩引いた距離から見るマザーの表情は少しばかり呆れながらも良い笑顔だった




- アークスシップ・ショップエリア3F 空中回廊 -

「ふわぁぁぁ……すっごぉい♪」

ショップエリアの3階、その身の一部がスケルトン素材で構成された空中回廊の中心部から見える光景は、まだ幼さの残るアルにとっては壮大かつ途轍もない光景だったようだ

アークスシップの中でも、アークスが利用するエリアは階層の関係上で上層部に存在し、一般区画よりも高層に位置している為、エリアの外縁部や開放的な階層からは周辺の一般区画や至近距離の下層の様子が遠巻きながら見えている
その中には地球の年始行事の様相を取り入れた施設の掲示や、巨大な簡易構造物が点在しており、真下にあるショップエリアの中央には『御社』も建てられ、時折、礼服や晴れ着を身に着けたアークスが運試しも兼ねて参拝に訪れていた

「どうですか? さすがに下層への同行許可は降りなかったので、アークスが利用しているエリアに限定されますが……。」

「……思った以上に本格的ね、コレ。」

「凄いよヒツギちゃん、あの御社で運勢占い出来るんだって!」

「……私はあまりそういった知識は持たないが、雰囲気や人々の気風から……とても真似事とは思えぬな。」

年始行事において、現地人種であるヒツギとコオリの感想は、期待以上のものであった、そしてマザーからも素直な称賛を得られ、シエラは得意げに語り続ける

「以前からも地球のリサーチ情報を利用して季節感のある内装へ変えていたんですが、今回から調べた情報だけでなく、生の声……つまりイツキさんやRINAさん達、そして戻ってきた透火さんも監修してくれてますので、再現率も完成度も鰻登りなのです!」

「……確かに、睦月先輩って私以上に古い歴史とか知ってたり、歴史的建造物の由来とか物凄い量の情報持ってるもんね……監修役にはピッタリだわ。」

シップ内の内装が此処までの完成度を得た経緯を説明され、ヒツギはやや呆れ顔で納得した……いや、納得せざるを得なかった
ヒツギ自身、古代の歴史や知識、神話などにおける情報は豊富に持っていた、しかしある時、透火と話す話題が『それ』だった時、その圧倒的な情報量と専門知識、そしてあろう事か『実際の資料の生翻訳』までその場で披露され、圧倒された事があったのだ

「……そういえば、透火さんってハルコタンの言語翻訳前から現地の白の民と普通に会話できてたんですよね……私も後で知ったんですけど。」

透火に関する奇妙な謎に頭をひねるヒツギとシエラ、コオリとアルは眼下に広がる光景に目が行ったままで気付いていない
マザーはコオリとアルとは違う場所で下層の景色を眺め、思い耽っていた

(かつてはこのオラクルへと侵攻し、復讐心に駆られ全てを滅ぼそうとまで思っていたが……あの時から私も変わったな……)

そこへ1つの足音が近づいてくる……足音に気付いたマザーは顔をそちらへ向け、先程まで少し硬かった表情を緩めた

「……お久しぶりです、我が主。」

近付いてきたのはトリニティだった、しかし普段のキャスト姿ではなく、地球人としてマザーの傍らに居た地球人『暁 紗那』としての姿だった

「もうその呼び方をせずとも良い……が、久しいな。」

「あちらの運営は順調なようですね、少し心配でしたが……。」

「むっ、この私を心配するとは……君も偉くなったな。」

「おや、コレは失礼……しかし、まさか本当に来るとは思いませんでしたよ。」

「……君の差し金なのだろう?
 姪孫の提案とはいえ、彼女の一存でここまで上手く運ぶはずがない。」

「実際、色々と手を回していますからね……こちらの組織の上層部に対しても。」

字面だけだと端々に不穏極まりない単語が入るが、当の本人達はまるで昔話を楽しむ様な雰囲気であり、不穏とは無縁のその表情からも、再会した懐かしい相手を苦笑交じりにからかい合う……そんな程度の意図しか無い事を物語っていた

その独特の雰囲気に気付いたのか、シエラが此方へ目を向け、トリニティの存在を確認すると、鬼の形相で睨み付けながら近付いてくる

「……彼女に何かしたのか?」

「えぇと、少し込み入った事情がありまして……。」

シエラの形相にイマイチ納得がいかないマザー、トリニティは平静を装って説明しようとするが

「な~にが込み入った事情ですか! まったく、今更ながら貴方が私の開発に深ぁ~く関与してただなんて、聞いた時は呆然としました!」

「……話が見えんぞ、どういう事だ?」

以前、シエラは自分の胸が貧相だという事を直接シャオに直談判した事があった
その時は逆にお叱りの言葉で即反撃され、取り付く島も無かったのだが……
後日、シエラタイプの基礎設計や製造を担当したのはトリニティであり、件の理由が「設計が面倒」という身も蓋もないものであった……
更に後に「設計に掛ける時間を極力削減し、量産態勢を迅速に確保する為」という注釈の付いた関係資料が総務部から回ってきたのだが……

「……と、言う訳でして。」

「……最低。」

「そんな理由だったんですか?! さすがにどうかと思いますよ!?」

いつの間にかヒツギとコオリも話に加わり、トリニティに対して非難を浴びせる
ヒツギの隣りにいるアルはというと……手にした団子に夢中だった

「それに、今なら再設計しても多少は余裕があると思いますが!?」

鬼気迫る表情でトリニティへと迫るシエラ、当事者でもないマザーですらその威圧感に少々気圧されていた

「……わ、分かりました……。
 とりあえず、シャオに再設計の許可を貰えるか打診してみますが……通らなかった場合は、綺麗サッパリ諦めて下さいよ?」

渋々といった表情でトリニティが妥協案を挙げると、しょうがないといった表情でシエラも納得する、その光景をヒツギ達はどことなく家族に似た雰囲気を感じるのであった

「では、予てからの予定通りに……アークス御用達のカフェで提供されている季節限定メニューを堪能しに行きましょう♪」

気持ちを切り替え、案内役に戻るシエラを先頭に、ヒツギ達は限定メニューを堪能するためカフェへと足を運ぶのであった

トリニティはヒツギ達をその場で見送りながら、小声で独り言のように呟いた

「……シャオ、次からはちゃんと自分で挨拶をして下さいよ?
 彼女にとって、貴方は生き別れの『姉弟』なのですから……。」

To Be Next Story…




次回予告

新たなるダークファルスとの激戦から数週間、オラクルはほぼ日常へと戻っていた
しかし、突如としてその平穏は破られる
新たなるダークファルスの襲撃、しかも今度は内部から……
巧妙かつ慎重に事を運ぶ新たなるダークファルス【傲慢】の策略により
海底施設から救い出された彩火が拉致されてしまう

……曰く、彼女は【敗者】復活の贄だ、と……

次回、PSO2-ACE’s 第12話 運命(中編)

運命とは避けて通れぬ道のようなもの……
足掻いても抗えぬその恐怖を味わうが良い!

「番外編「アークスの年始事情」」への1件のフィードバック

  1. EP6終結後なら予算にも余裕が出来てそうだし、全シエラタイプの換装パーツや増設パーツくらい取り繕ってくれるだろうよ。そうだよな?シャオ、トリニティ?

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