第12話 運命(中編)

« 緊急事態! アークスシップ10番艦ナウシズの動力部に異常発生! »
« 常駐職員全員の生命活動停止を確認、同時に敵性体の侵入の痕跡を確認。 »
« 痕跡の残留フォトンから侵入者はダークファルス相当の存在と思われる! »
« 周辺区画の非戦闘員は直ちに退避、並びに艦内のアークス全員に緊急通達! »
« シップ動力区画内にダークファルス相当の敵性体が侵入した。 »
« 全アークスへ緊急指令! »
« 10番艦の動力区画に侵入した敵性体を排除せよ! »

繰り返し響く警報とともに、アークスへの緊急通達がスピーカーから流される
それは侵入した本人……ダークファルス【嫉妬】にも聞こえていた

「フフフ……獲物があっちから来てくれるなんて、至れり尽くせりねぇ?」

妖艶な笑みを浮かべ【嫉妬】がせせら笑う
周囲には無残にも首がない死体がいくつも転がっている……しかしこれは【嫉妬】の攻撃ではない、他のダークファルスの所為であった

「……今回は陽動、と聞いたが……お主と一緒だと事が大きくなり過ぎる。」

物陰から現れたもう一人の侵入者……ダークファルス【怠惰】が背中から生えた触手で最後の1人であっただろう人物の首をアッサリと寸断しながら現れた
【怠惰】は背中の触手を器用に操って傍にあったモニターを操作し、市街地エリアからなだれ込んで来るアークスを映し出す画面へと切り替える

「一先ずは作戦成功、といった所か……?」

「そうね、あとは私がやるからアンタは本命の手伝いにでも行きなさい。」

「そうさせて貰おう、お主と居ると退屈はせぬが面倒事しか起こさぬからな。」

そう言い残し【怠惰】は闇の中へと消えていった
それを尻目に【嫉妬】が区画の入り口へと向き直り、なだれ込んで来たアークスの先陣と戦闘を開始する……その顔に恍惚とした笑みを浮かべながら





アークスシップ4番艦アンスール・艦橋

10番艦の異変はすぐさま他のシップへも伝わり、救援部隊派遣のための各種承認や申請を一手に引き受け、猛然と処理作業をこなすシエラ
ハイ・キャストとして生を受けてまだ間もない彼女だが、その処理能力は通常のキャストとは比較にならないほどずば抜けて高く、仮にその全能力を一点に集中できれば、類まれな処理速度であらゆる事象に対し、瞬時に対応策を解答することが出来るであろう
そして今まさに、シエラはそのフル・ポテンシャルを発揮していた

現在、シエラタイプのハイ・キャストは1番艦から順次、艦橋常駐要員として配属され、数日前にようやく全艦へ配属が完了した所であった
既に10番艦のシエラからの救援要請も届いており、他の艦に配属された現行のシエラタイプ全員が相互リンクしながら対応策と対抗策を並列思考で処理しているのである

「私達の目の黒いうちは、ダークファルスだろうと好き勝手させませんよ~!」

そう意気込む4番艦のシエラの背後に、黒い影が蠢いていた





アークスシップ4番艦・通信制御室

「何事だ!? 状況を報告しろ!」

数人のオペレーターが異変に気付き、狼狽えている様子を見て室長のヒルダが声を荒げる

「か、艦橋との通信途絶! シエラタイプのモニターにレッドアラートです!」

「何っ!?」

突然報告される艦橋との通信途絶、そしてシエラの活動をモニタリングしていたセンサー類が一斉に対象の状態が危険に晒されているとレッドアラートを表示していた……それはつまり、艦橋が何者かに襲撃されたという事であった

「どういう事だ……? 艦橋の状況はどうなっている?!」

「わ、分かりません……通信が妨害されている上、監視カメラも破損してて……。」

報告を聞きヒルダは歯噛みする、監視カメラが破壊されたという事はその位置を知っていた内部の犯行、もしくは爆発などで全てが吹き飛んだ場合と推測される

「ちっ、シャオが集中演算に入った隙を突かれた形になったか……!」

シエラのモニターがレッドアラートを表示しているという事はおそらく後者の可能性が高い……状況を予測したヒルダはすぐさま他シップのシエラタイプへ艦内制御の応援を要請しつつ、現場付近のアークスを状況確認に走らせた



「……っ、これは……!」

ヒルダからの要請を受け、艦橋の状況確認に来たバルバラとクロト
そこに広がっていたのは何らかの爆発物で広範囲に破壊された艦橋の無残な光景と、爆発によって両腕が千切れ飛び、気絶しているものの辛うじて生きていたシエラの痛ましい姿だった

「私はシエラをメディカルセンターへ連れて行くわ、貴方は状況確認をお願い。」

「了~解、任されて。」

ベテラン故の迅速な判断でバルバラとクロトは手分けしての行動に移る
すぐさまバルバラはシエラを抱え上げて艦橋から去り、クロトは危険が無いか慎重に歩を進め、艦橋の中央部分……メインオーダーテーブルの前へと辿り着いた

「ん~、この痕跡……爆発物とはちょ~っと違うなぁ……。」

クロトは周囲に散らばる破損した部品や、多数の痕跡を丹念に調べ上げながら、ここで一体何が起きたのかを推察していく

「おそらく……爆発の中心点はココ、シエラのすぐ後ろかな……一番、損壊が激しいうえ床まで溶けかかってるなぁ。
 そしてこれは……残滓か、この波長はもしや……!」

クロトは己自身の予感が最悪に悪い方向で当たっている事に歯噛みした
独特な漆黒と、ほのかに紫を帯びたフォトンの残滓、それが示すものは……





アークスシップ10番艦ナウシズ キャンプシップ発着ターミナル

キャンプシップが次々と発着を繰り返し、既に相当な人数のアークスがナウシズへと到着している
しかし、対処すべきダークファルスが陣取っているのは……艦船用フォトンリアクターがある動力区画である
そこはおよそ戦闘には向くはずもない狭い通路と、迷路のような構造は攻め辛く守り易い状況を双方に齎していた

「くそっ……こう狭い場所に陣取られたら、攻めるに攻められないぜ……。」

現場を示す簡易マップの状況から瞬時に戦況を察したのか、 経験豊富な熟練だろう 壮年の老アークスが独り言のように愚痴をこぼす
4番艦から支援に来ていた透火とターミナルで合流したセリス、そして同じく4番艦から支援に来たシナノ達MRS保有者4人がマップを覗き込む

「第8区画から伸びる連絡路は、損壊が激しくて進行不能ってあったね……反対に第2区画を迂回して直接行けるルートは現在進行系でグリッドロック(渋滞)状態らしい。」

セリスが得ていた最新情報を元に、別の進行ルートを考えていたシナノ達の表情が曇る……初期型とはいえ新たなダークファルスに対し、設計者の想定以上の戦果を齎していたMRSを保有するシナノ達は、自分たちが最前線に出向かなければ被害は広がる一方だと熟知していた
しかし状況的に他のアークス達はMRSが齎す力などつゆ知らず、「数の暴力」を上手く使えば新顔だろうと倒せる!と息巻く者が多く……本来ならば絶望的なほどの戦力差に、誰もが気付いていなかった

「チッ、奴ガドレダケ強イノカ、知ラネェ愚カ者バッカリジャネェノカ?」

龍鬼の嫌悪感むき出しな毒舌に、シナノがまぁまぁと抑える
だがしかし、彼らが最も危惧していた事態は既に現実となって齎されていた





アークスシップ動力部・リアクター制御室

「ハァ……退屈ねぇ、もっと手応えのある奴は居ないのぉ?」

【嫉妬】は溜め息混じりに退屈を訴えながら群がるアークスを蹴散らしていた
ダークファルスにとって、一般のアークスでは有象無象と変わりなく、ましてや【嫉妬】の力は全盛期の【若人】に匹敵している、加えて新たに限定空間内の「重力操作」能力を獲得し、周囲に発生させた大量の高重力球にフォトン以外で僅かでも触れればたちまち引き込まれその存在ごと消し去る脱出不能の墓穴……
ろくに攻撃する手段を見出だせず命を絶たれる者、迂闊に黒球に触れてしまいその存在ごと抹消される者、黒球をくぐり抜け本体に打撃を加えようとして返り討ちに遭う者、戦意を喪失し力なく倒れその身を侵食される者……

……最早、最前線は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた

「ほらほら、もっと頑張んなさいよ?」

「……くそったれぇぇぇ!!」

「オレたちを舐めるなぁ!」

「行くぞぉぉぉ!!」

前方のハンター達がそれぞれ連携し、周囲の黒球を払い抜けて【嫉妬】に肉薄
その後方でフォースの一団が高火力のテクニックを詠唱、さらにその両脇から前方の3人の間隙を縫ってレンジャー集団の銃撃が乱れ飛んでいた
息吐く間もない精密かつ怒涛の連携攻撃……しかし当の【嫉妬】自身は退屈そうな表情からさして変わらず、ため息を吐いて迎撃に入る

「ハァ……人生からやり直しなさいな。」

おもむろにハンターの1人の胸元へ片腕を向ける、指先を伸ばし出された【嫉妬】の手はまるで武術の貫手のようにハンターの胴体をあっさりと貫通、もう片方で左右から来るハンターの首を手刀で薙ぐように叩き落とし、その光景に動揺したフォースの1人の眼前まで瞬間移動
狼狽するフォースの首をこれまた次々と手刀で斬り落としつつ、逆上しながら撃ってくるレンジャーの弾丸をまるでダンスのようなステップで回避、そのままレンジャー達へと近付き、新たに生み出した黒球で心臓を抉り取っていった

出遅れていたシナノ達が【嫉妬】の元へ辿り着いたのは、まさに最後の1人が心臓を抉り出され絶命した直後であった

「……あはっ、ようやく歯応えのある獲物が来てくれたわね? 歓迎するわ!」

残虐な笑みを浮かべ、歓喜の声で反応する【嫉妬】

「テメェ、よくもさんざん殺しやがって……覚悟出来てんだろうなぁ?!」

一番短気だったUKAMが怒声を響かせる
シナノや他の面子も、はっきりと怒りで顔を歪ませていた

「……【嫉妬】トカ言ッテテタナ、オマエニハ地獄ヲ見セテヤルヨ……!」

「堪忍袋の尾が切れた……絶対にキサマは許さん!」

「「「「変身ッ!!」」」」

シナノ達は素早く其々ベルトを装着し、MRSを起動……ライダーフォームへと変身し【嫉妬】へと攻め掛かる
同行していた透火とセリスも武器を構え、シナノ達を援護するように攻撃し始めた



[ Ready! ]

UKAMはベルトからユニットを外して手早く操作、銃へと変形させて牽制射を交えつつ走り込み、左右からはシナノと龍鬼が【嫉妬】挟み込む
UKAMの手に握られたユニットから電子音と共に濃密な赤色のフォトンビームが放たれて両脇を掠め、動きを制限された【嫉妬】をシナノと龍鬼が挟み込みつつ同時攻撃。

完全に動きを封じられた筈の【嫉妬】だが、その顔から笑みは消えなかった

『強引なのは嫌いじゃないけど……?』

腰の獲物を素早く引き抜き、回転すると同時に左右の攻撃へ合わせて防御、そのまま回転を速めて軌道を逸らしていた

「んなっ?!」

「スピン回避……?!」

避けられた同時攻撃のフォローに入るsukeixisuが高速移動で回り込むが、それも読まれていたかの様に【嫉妬】は難なく回避、そのままセリスを無視して透火へと迫る

「……ッ!?」

突然の接近に身が竦む透火、この距離では手にした長杖は逆に邪魔でしかなく、【嫉妬】相手に抜剣に持ち替える暇など有りはしない

【嫉妬】の蹴りが透火を強襲、一瞬の判断に迷ったその体を壁面へと叩きつける
追撃を防ぐためセリスが大剣を振るうも【嫉妬】は回転で躱し、バランスを崩した所へ再び蹴りで床に叩き伏せた

「……っぐ……」

「コイツ!!」

龍鬼の抜剣が【嫉妬】を追うが尽く攻撃を逸らされる、明らかに【嫉妬】の方が速い

「前よりも速い……!」

シナノは【嫉妬】の動きに対応はできても、追い付く事はできないと判断した
シナノの持つMRSには超高速で移動する物体を認識し、自らもその速度で行動できる能力「クロックアップ」がある……しかしその眼ですら【嫉妬】の姿は揺らいで見えた

……つまりそれは相手も「同等の速度が出せる」という事だった

「……あら、手加減してるの? それとも、この前のがまぐれだったのかしらぁ~?」

「……いや、まだまだこれからさ!」

[ CLOCK UP ]

電子音声を皮切りに、【嫉妬】とシナノの姿が掻き消える
いや、2人は眼にも止まらない超高速の世界で格闘戦を繰り広げていた

流れるような連撃で【嫉妬】へ連続攻撃を仕掛けるシナノ
対する【嫉妬】も同じく連撃で対抗してくる……この間、周囲の誰もが微動だにしていない……
これが「クロックアップ」の能力……能力者はその効果中、物理的に「光の速度」で活動可能となり、周囲の時間から一時的に切り離される……その間に起こした行動の結果と影響は「タイムラグ」に蓄積され、限界時間を迎えると一気に表面化し周囲に影響を与えるのである
もちろん、この能力に対抗できるのは同系統の能力のみ……つまり現状【嫉妬】を止められるのは「クロックアップ」できるシナノと「フォーミュラ」状態のsukeixisuだけ……

「変身っ!!」

……訂正、まだいました

叩き伏せから復帰したセリスが変身し、以前の【憤怒】戦とは色違いの鎧を纏う
その鎧は緑を基調としながらも金の装飾が目を引く……前の赤とは違い鎧の突起は少なく、空力を考慮された局面の多い外見だ
セリスはそれから武器……持っていた大剣「チェインソード」をアイテムパックに格納し、代わりに普段は苦手としていた長銃「フローズンシューター」を取り出す……出現した武器のグリップを握り形状を確かめた瞬間、瞬く間にフローズンシューターはまるで粘土細工のように姿を変え、まるでボウガンのような金の装飾が眩しい独特な形状へと変化してしまう

だがセリスは著しいその形状変化にも驚くこと無く武器を構え、後部のグリップを引いて僅かに集中……その弾丸を迷い巻く虚空へと放った

「な……っ!?」

[ CLOCK OVER ]
「ナイスアシスト!!」

弾が弾かれる音と共に消えたはずの【嫉妬】が現れ、僅かに遅れて電子音声と共にシナノも出現、声と発しながらベルトを操作し始める

[1……2,]

突然の横槍……常人では知覚すら出来ない超高速同士の戦闘に、不可能なはずの攻撃に動揺する【嫉妬】は焦って体制を崩す、対するシナノは勝利を確信しベルトの操作を完了した

[3,]
「……ライダーキック」
[ RIDER KICK ]

シナノのベルトからスーツの頭部の角へ紫電が迸り、さらに足へと移動したタイミングでシナノは【嫉妬】へ絶妙なタイミングの回し蹴りを放つ
回避不能の一撃……今度は外さないというシナノの意思を乗せた蹴撃は、吸い込まれるように【嫉妬】の左脇腹へ命中し、炸裂の瞬間にフォトンの奔流と小規模な爆発を引き起こして【嫉妬】を凄まじい速度で壁へと叩き付けたのだった

To Be Continued…

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