第4話 異質なる力(後編)

市街地で対峙する数人の人影・・・一人は純白の装具に身を包む六芒の一、レギアス。
相対するのは黒ずくめのダークファルスらしき男。
そしてレギアスと黒男から少し離れて立つのは、シナノ達にベルトを渡し終えて戻ってきた透火ともう一人・・・露出の多い紫紺の衣装に首周りから目立つ羽飾りが印象的な長身の女性だった。

『・・・主よ、あの黒男は危険だ。』

刀を手に隙のない構えを崩さない紫紺の女性、その意識は全てレギアスに相対する黒男に注がれていた。
だが黒男は、想定外に続く想定外の事態にも冷静さを欠く事はなかった。

「・・・想定外だ、だが収穫はあった・・・。」

黒男はそう言い残し、次の瞬間にはビルの屋上へと飛び去っていった。

「レギアス、今の奴って・・・。」

黒男が去りレギアスの側に来た透火、紫紺の女性も透火に付き従い歩いてきた。
鳥の嘴に似たガラス細工の仮面から覗く表情は、先程までの険しさは無く、レギアスを見るその眼は曇りなき戦士の眼差しであった。

「・・・ふむ、その気配と姿・・・ヒトではないな?」

この短時間で紫紺の女性が持つ僅かな違いを悟り、指摘するレギアス。
未だ衰えを知らぬ六芒筆頭に紫紺の女性は応えた。

『いかにも、我はヤミガラス・・・呪われし一振りに宿る者、今はこの者に仕えし剣の徒だ。』

レギアスはヤミガラスを見ながら昔を思い出していた。
かつて自分と剣を競い合い、高みを目指した人物も、彼女に似た雰囲気を持つ2人を連れていた事を・・・その2人もまた、自らを「剣の徒」と呼び主に付き従っていた。
だが、黒男の真意が気になったレギアスは思考を切り替えた。

「・・・奴はこの建物を外から探っているようだったな・・・。」

「ココって、トリーのラボ・・・だよね・・・こんな所にダークファルスの欲しがるような物ってあるっけ?」

『・・・我に聞かれても困るぞ、主よ。』

物でないとするなら人だろうが、ココにはトリーとジグ爺、それにトリーの妹達と彩火・・・
非戦闘員であるジグ爺と彩火以外は全員アークスだ、非戦闘員をわざわざ狙うにはリスクが大き過ぎるし、仮にそうだとしても理由は不明・・・そんなリスクを背負っても襲撃を計画していたなら相応の強さがあったはず、しかし奴はレギアスと自分たちを見て不利と悟り後退・・・あまりにも打算的すぎる行動に、透火は首を撚るしかなかった

「さて、思案するのはそこまでだ・・・私も中に用があるのでね、先に行くぞ。」

レギアスの言葉に透火も思考を切り替え、遅れないように後を付いていった




- アークスシップ4番艦アンスール ファルクス・ラボ内 応接室 -

「・・・なるほど、しかし解せんな・・・ラボの品ならともかく、人を狙うにはあまりに打算的・・・。」

「確かにココには、希少金属なんかや資材、それこそ希少品もゴロゴロしてるけど・・・ダークファルスが求めるなら人からの奪取じゃなくて生産地を襲撃すると思うんだけどね・・・。」

ラボに居たジグとトリニティも、外で思案した同様の意見を返してきた
ならば可能性として最も低い『人物を狙った場合』なのだろうが、ジグ爺は有名とはいえ民間人、同じくトリニティは妹2人も含めて現役のアークスだ、残るは彩花だが、その存在を敵側が知っていたのだろうか・・・もし、仮に知っていたのだとしたらその存在をどうやって知り得たのか

「・・・情報漏洩の疑念は後回しとしよう、早急なる問題解決が望ましい案件が多数ある、今はそちらを優先して貰いたい。
ジグよ、以前にこう言っておったな、世果の『見てくれなら修繕できる』と。」

言葉と共に取り出した巨剣の如き鞘に収められた太刀・・・創世器「世果」
かつてダークファルス【敗者】にトドメを刺した時、全知存在「シオン」の加護を消失したまま行使した事によって破損した「抜剣の創世器」だ
以前レギアスは「世果」を修繕できないかとジグへ依頼した事があった
・・・しかし、ジグは「見てくれだけならば完璧に出来る、だが持っていた力は元の様には戻せん」と・・・

「そうじゃ、世果を始め全ての創世器は『全知存在(アカシックレコード)』であったシオンによる加護とエネルギー供給があって初めてその力を使えるという代物じゃった、じゃが『世果』はシャオへの全権限移譲の前に破損した・・・そして加護と権限を喪失した状態でシャオへの権限委譲は出来なかった、つまりは唯一無二の動力源を失った機械と一緒なんじゃよ。」

唯一無二の動力源・・・現存している創世器は全て、シャオへの全権移譲を済ませており、以前ほどではないものの使用可能な状態を維持している
しかし、権限移譲は破損していない状態でなければ出来ないものだった為、世果は修復は出来ても動力源を喪失したまま動かせないと言う

本来ならば単に破棄するだけで良いのだろうが、レギアスにはそれが出来なかった

「・・・かつて私が六芒均衡に任ぜられた時、2つの約束をしたのだ・・・1つはアルマとの・・・もう1つは共に剣を磨いたある友との・・・【敗者】を排し、アークスをあるべき姿に戻せたあの日から・・・この世果を見る度に思い出すのだ、友との約束を・・・。」

懐かしさともどかしさ、そして僅かな後悔を抱いた複雑な心境を吐露するレギアスに、全員が口を閉じ聞き入っている、そしてレギアスは告げた

「この身には『創世』がある・・・ならばこの『世果』は、私より彼女の方が相応しい・・・いや、違うな・・・彼女が本来の『世果』の主だ、私は彼女の心を2度も折ってしまったと言うべきか・・・。」




-アークスシップ4番艦アンスール 市街地・迎撃エリア-

市街地の戦闘は未だに続いていた
シナノを始めとするMRS適合者とダークファルスらしき黒女との激闘・・・しかし一向に決着が付く気配はなく、長い膠着状態に陥っていた

「たった4人でよくやるわねぇ・・・ここまでアタシが手を焼くのは【憤怒(フーラン)】と戦って以来かしら。」

シナノは戦闘中にも関わらずよく喋る黒女の言葉を聞き漏らすまいと気を配り、同時に録音もしていた、その音声は同時並行で艦橋のシエラにも届いていた

『新たなダークファルス・・・眼の前にいるこの相手が【憤怒】ではないのなら、2人目のダークファルスが?!』

通信から漏れ聞こえるシエラの言葉にシナノ達も一瞬動揺する、それを黒女は見逃すはずはなかった

「この私を前に棒立ちは命取りよ?」

一瞬の出来事だった、黒女が4人に分身、次の瞬間シナノたちの背後へと移動し、持っていた2つの剣で吹き飛ばす
シナノ達も認識こそ数瞬遅れたもののきっちりガードには成功し、吹き飛ばされたもののダメージはごく僅かに抑えていた

「あら、カンは鋭いのね・・・そうでなくては殺り甲斐がないわ。」

「いい加減、アンタの相手は面倒だな・・・シナノ、一気にやるしかねぇぞ。」

悪態混じりにUKAMは黒女を睨みつけながらシナノへ近づく
sukeixisuと龍鬼 もそれぞれ身体の状態を確認しながら集まり、4人は黒女と相対した最初の位置取りに戻っていた

「しょうがねぇな・・・もうちょいこのまま粘れば勝てると思ってたが、埒が明かないんじゃ仕方ないよな!」

シナノの言葉に全員が頷き、4人は再びベルトへと手を掛けた

「あら、まだ歯向かう気概があるなんて・・・逆に尊敬しちゃうわねぇ?」

シナノは右手を天に突き上げ、sukeixisuと龍鬼は身につけていたアイテムを、そしてUKAMは足元にあったケースから武装らしき物体を取り出す

「オレはもう、オレ自身の未来を掴んだ!」
「本気のひとっ走り、付き合って貰うぜ!」
「俺ガ引導ヲ渡シテヤル、覚悟シナ・・・」
「ココからが本気モードだ!」

4人がそれぞれ覚悟の一声と共に動き出す
シナノが挙げた手には虚空から・・・カブトムシに似た掌に収まるサイズの昆虫メカが収まり迷うことなくベルトの左側へ装着、sukeixisuは赤に虹色のスリットが入った端末を取り出して左手首へ差し込み、龍鬼は戦闘に用いてた剣とは別の短剣を取り出して構え、そしてUKAMはケースから出した大型端末にベルトから外したアイテムを差し込み、コードを入れてロックを解除した

『Cast off!』
『Type Tridoron!』
「龍鬼・・・装甲ッ!!」
『ピピッ・・・Awakening』

それぞれの操作にベルトやアイテムもそれぞれ起動、その真価を発揮し初め、4人の姿は更に変わっていく
そして4人はさっきまでの部分装甲やプロテクター姿から全身装甲の如きそれぞれ専用のスーツに覆われ、しかし固有の特徴を損ねない新たな姿へ・・・文字通りに再び「変身」したのだった

次回予告

突然の襲撃を凌ぎ、ラボ内で過去を語りだすレギアス
そして、事態を打開すべく更なる力を発揮するシナノ達
対抗する黒女は何者なのか、そしてその目的とは・・・

次回 「未来へと向かう為に」

レギアスの隠された過去、そして黒女との激闘の先にあるものとは・・・?

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