第22話 再び這い寄る混沌

 あれから数日後、例の女性キャストが意識を取り戻したとの報告が入る。
レギアスを始め、40年前に彼女……ディアと関連性のある人物が全員呼び集められた……その中には何故か、トリニティや眞那、瑠那の姿もあった。

「……シャオ、何故僕達まで?」

 訝しむトリニティの問いに、シャオは真面目な表情を崩さず答える……

「今の君の姿、そして彼女たちの過去をもう一度洗い直した結果……君達の遺伝子情報と、彼女のキャスト化前のデータを照合した所……血縁関係である可能性が出たんだ。
 その一致率は約92.5%……どうあっても見過ごせない一致率なんだ。

 それで、もしかしたら……と思って呼んだんだけど……」

 歯切れの悪いシャオの言葉に、トリニティは疑問符を浮かべるしか無かった……

「お待たせしました……さぁ、コチラへどうぞ」

 看護官のフィリアに連れられ、松葉杖で現れた紅い女性キャスト……

「へぇ……身体こそキャスト化してるけど、顔や雰囲気はアイツそのままだ……」

 レギアスと同じく、ディアと付き合いの長かったマリア……見た目こそキャスト化による差異はあれど、その根本……彼女らしさ自体は薄れていないと語った。

「先程彼女自身の過去の記憶の有無を確かめた結果なのですが、『全生活史健忘』……まり、彼女は自分の名前すら思い出せない程の完全記憶喪失状態だと診断されました」

 フィリアの語った診断結果に、集まった全員が絶句する……全生活史健忘とは、ある時を堺に生まれてからの全ての過去を忘れてしまう記憶障害の一種で、名前はおろか過去の出来事などの一切を思い出せなくなってしまうのである。
 主に自己に関する記憶が綺麗サッパリ抜け落ちるのだが、社会的な事象や出来事は覚えている事もあり、事実……彼女の記憶に40年前の【巨躯】戦争の情報はあった。

「……それでは、私達の事は一切覚えていない……と、言う事かね?」

「個々の情報まで精査した訳ではないので、今はなんとも……しかし、自身の過去を一切覚えていないのは確かです」

 レギアスの問いに、心苦しさを滲ませてフィリアは答えた。
 レギアスも、その答えに悲しさを滲ませながら「そうか……」と言うだけであった。

「……済まないが、私には君達の消沈の理由が掴めない……私の過去の記憶が無いのがそんなに大事なのか?」

 当の本人からの意外な反応に、シャオがまず目を剥いた。

「君自身の記憶だよ? 君は自分の過去がどうでもいいのかい?」

「どうでもいいとは思っていない……ただ、私の過去がないのは私の事であって、君等が気に病むことではないと言っている。
 私に過去があろうとなかろうと……今を生きているだけで私は満足なのだ。

 それに、例え記憶喪失であっても……私は私だ、他の誰でもない」

 彼女の言葉に、少しの沈黙の後……シャオは笑いだした。

「アハハハッ! そうか……そうだね」

「過去に縛られず、今この瞬間を生きる……
 その刹那に生きる者……そう、今より私は……刹那、とでも名乗ろうか」

 縛られた過去を捨て、彼女は今を生きる事を選択した。
 たとえ過去に何があろうとも、彼女は今を生きようとしている……それを自分が阻む訳にはいかない……レギアスはそう思い、トリニティの肩を叩く。

「分かってます……わざわざ過去を詮索するほど僕も無粋じゃありませんし、何より……母としてでなくとも……こうして生きていると、分かったのならそれで良いと……僕も思っていますから」

「……そうか……」

 彼女に深い関わりのある男2人が、これ以上は望むまいと心に決めるのだった……

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