実験施設から救助された女性キャストは型の古いタイプのパーツがあまりにも多く、同型パーツの入手が最早不可能と判断され、最新型の生体ハイブリッドモデルへの換装を余儀なくされた。
なお、採用されたのは最新鋭モデルの一つ『ナイトメア・シリーズ』……
軽量かつ強靭なメインフレームと静音性に優れた設計、高速戦闘にも対応した汎用パーツが高水準で融合した良品である、と高評価のモデルだ。
「……カラーリングはそのままなのね」
「うん、目覚めて間もない内から、あまり違和感を与えたくはないしね」
彼女のボディカラーは換装前と同じく……メインの深紅に、白く見える部分は銀が使われており、サブカラーはセッティング順に金、灰、緑となっている。
「実を言うと、彼女の状態は最悪の一歩手前だったんだよ……
記憶領域(メモリーデータ)は破損だらけ、個体識別情報は削除されてるから製造元のトレースも無理……おまけにアセンブリデータも消されててパーツが何処の誰製なのかも不明と来た」
「何よその徹底的な情報対策……完全に『裏で使う予定です』感バリバリじゃない?」
そう、彼女の機体情報から製造元などをトレース(追跡調査)出来ないかと洗ったのだが……潔癖症の如き徹底ぶりで情報が削除されており、製造元はおろか使われた資材の提供元すら特定できず、追跡調査はあっさりと断念されてしまったのである。
これ程までに徹底的な情報対策を施された機体……つまり、裏……虚空機関に関係する存在ではないかと問題も浮上したが、シャオ直々の調査によって少なくとも実戦への出動や戦闘に出された記録は無く、施設内から持ち帰られたデータにもその様な記録は一切なかった為、被験者の域を出ないと結論付けられた。
「兎に角、彼女が目覚めてくれないと事情も聞けないからね……」
ため息を吐くシャオを尻目に、やや呆れ顔のサラがカーテンを開け放つ。
心地よい風と日光が、未だ眠りから冷めない彼女の頬に当たり始めた……
「ん? ……おぉ、ココに居たのか2人とも」
入り口から声が響き、部屋へと入ってきたのは白装束と言っても過言ではない男性キャスト……六芒の壱、レギアスだった。
「やぁ、レギアス……教導部の方は良いのかい?」
「マリアの奴が少々張り切っておってな……調査団が持ち帰ったデータに、訓練相手として丁度良いものが見つかったとか……それを自ら試している所だ」
時折、戦闘狂じみた行動を取る六芒の弐、マリア。
レギアスと同じく後続に道を譲るため前線を退いたはずが、今なお自ら最前線に立とうとする……
後継の育成を目的に発足した教導部内において、マリアの行動はその方針に沿わない事でも有名だった。
「あはは……それはまた……」
「まったく、バカマリアめ……本当に総務部の仕事をアタシに丸投げしてきたわね」
そう、本来マリアは総務部のトップである。
「……して、彼女が救出されたキャストか」
遠目からレギアスが窓際に据えられたベッドで眠る赤い女性キャストに気付いた。
シャオは頷いて肯定し、サラもカーテンの遮光レースを戻して光量を抑え、確認しやすくしてくれた。
「30数年前に失踪したらしいという情報だけでは、さすがに身元の特定は無理だったよ……」
「そうか……む? この顔……いや、まさか……あり得ん!」
シャオの言葉に相槌を打ちながら近付いて顔を確認したレギアスの表情が一変、驚愕と懐かしさを混ぜ込んだ複雑なものへと変わる。
「レギアス?」
サラの問いかけにレギアスは少しの沈黙の後に驚愕の一言を発した。
「いや、この顔は間違う筈もない……
彼女……ディアは、40年前の【巨躯】戦争時に失踪した……私の従姉弟だ」