その場に居た全員が言葉を失っていた……
アークスシップのショップエリアの空中、そこに立つ2人のダークファルス
その片方が力なく落ちていくのを、その場に居た全員は、ただ見る事しかできなかった……
『……1つ』
ただの一言、それだけに含まれる圧倒的な怒気……
常人では卒倒しそうな程の圧力に、シナノ達は足を止めてしまう
「マ、マジカヨ……アイツ、同族ヲ……ダークファルスヲ殺シヤガッタ……!」
龍鬼の声、驚愕を隠せない一言……
直後、未来を絶たれた方のダークファルス【嫉妬】が灰となって消えていく
もう片方のダークファルス……【災禍】は、怒気を隠さぬ顔のまま見続けていた
「透火……ヤバいぞ!? アイツ【嫉妬】に貫かれたままだ! 助け……」
ズンッ
シナノが透火の事を口にした直後、先程よりも更に強い圧迫感が全員を襲う
凄まじい圧力に、膝を折られそうになるシナノ達……
「なんという、威圧感……!」
「このままじゃ……マズイぜ、こっちもな……」
sukeixisuとUKAMの苦悶の声、この威圧のせいで体の動きが鈍る……
息苦しささえ感じる威圧を放ちながら、【災禍】は地上へと降り、動かない透火の傍に立つ
辛うじて生きてはいるが、反応もなく、胴体からの出血も止まらない
何を思ったのか、無感情のまま【災禍】は透火へと手を伸ばす……チリチリと【災禍】の放つ負のフォトンが、残り火のように透火を覆うフォトンを焼き焦がしていた
それを気に留めることなく【災禍】の手が透火に触れようとした直後
ガキィィィン!!!
透き通った金属音……瞬間移動で距離を取り、別の場所に現れる【災禍】……
そして、先程まで【災禍】が立っていた場所には、漆黒に塗られた黄金のフォトンを発する長杖が突き立っていた……
『そこまでじゃ、彩……その娘が死ぬぞ?』
大気を伝って聞こえる音ではない、頭の中に直接響く声……どこか悲しげで、しかし絶望に負けぬ意思を感じる凛とした女性の声
「……あ、アンタは……?」
シナノ達の間を縫って歩いて来たのは……足音の代わりに鈴の音を響かせ、薄青の花模様と要所に小さな鈴をあしらった和服姿……風の影響など関係ない様に、無重力に浮かんだ銀髪と羽衣を揺らし……気配なく歩き続け、透火の側に突き立った黒杖を手に取った
『初めましてじゃの、童よ……妾の名は「芙蓉」、お主等の言うところの「フォトナー」じゃ……よろしくのぅ』
突然現れた独特な言い回しをする女性……自身を「フォトナー」と言った彼女は、信じられない事に、手にした扇子で場を支配する威圧感を一振りで薙ぎ払ったのだった
……?!
これにはシナノ達だけでなく、威圧の主である【災禍】も驚きを隠せない
『彩よ、この娘は妾が預かる……異論は受けんぞ』
『……触れるな、触れるなぁッ!!』
ドス黒いオーラを発して【災禍】が凄まじい速度で芙蓉に肉薄する……が、寸前で芙蓉の姿はかき消えた
『……ッ?!』
気配を感じて振り向いた【災禍】の視線の先には、空中で透火を子供の様に抱き抱える芙蓉の姿があった
『……異論は受けぬ、と言ったはずじゃぞ』
やれやれ……といった感じで芙蓉は【災禍】を見ている
【災禍】を除く全員は、その一連の出来事を唖然と見ているしか出来なかった