第20話 破滅を齎す妖花

 破壊した扉の先にあったものは……大小様々な機器と、ヒト1人が入るくらいのカプセル、そしてそれを厳重に封印している機械群だった。

『妾の杖をこんな形で利用しておったとはな……じゃが、返してもらうぞ?』

 厳重な封印、それを掌に生じさせた重力球で容易く破壊……漆黒に銀の縁取りで彩られたクラリッサにも酷似した長錫が現れる。

-《 Guten Morgen, mein Herr. 》-

『うむ、妾の手元以外は退屈じゃったか?』

-《 Ja, es war fast dysfunktional 》-

『おぉ、そうかそうか……ならば妾の元に戻るが良い。
 これからは退屈などさせぬし、妾もまた……お主の力を借りる故な?』

-《 Ich verstehe, Mylord. 》-

 聞き慣れない言語の言葉が途切れると同時に、漆黒の杖は自ら封印場所から浮かび上がり……芙蓉の傍らに降りてくる。
 自意識を持ち、アークスの翻訳機にも類さない未知の言語を操る黒杖……

 持ち主の芙蓉を除く全員が、その光景に理解が及ばない様子で呆然と見ているばかりだったのは必然だったであろう。



 その後、黒杖の封印が破られた事で施設内の全セキュリティが解除され……移動も楽にはなったが障害も増えた。

「全く……厄介事が次から次へと……!」

「そうは言うが、セキュリティの喪失は不可抗力だろ……お陰で行けない場所は無くなったんだしなッ!!」

 ユクリータが悪態を吐きながら双機銃で海王種を蜂の巣にし、ゼノは銃剣の刀身で鉤爪を回避……受け流すと同時にその挙動を利用してバランスを失わせ、攻撃してきた敵を逆に仕留める。

「ユク姉!!」

 アフィンの声に素早くユクリータが姿勢を落とし、声の直後に放たれた弾丸が、先程までユクリータの胴体があった場所を襲った海王種へと吸い込まれた。

「Gyaaaaaaaaa!!」

「うるっさいわねぇ……法撃ッ!!」

 トドメとばかりにエコーの雷撃が放たれ、黒焦げから物言わぬ躯へと成り下がる。

「何じゃ、お主らなかなかやるではないか?」

 芙蓉の驚嘆に「「「「さっきまでアンタが蹂躙してたからだよ!!」」」」と心のツッコミが見事にハモる4人であった。

 そうしてやってきたのは施設のとある部屋……
実験室の様な様相と、放置されたが故の経年劣化が何とも言えない雰囲気を醸し出すこの部屋に、アークスに酷似した生命反応を探知したのだ。

「……通信機器だけが生きてるのか……それともホントに生存者か?」

 兎に角発信源を見つけなければ真偽も確かめられない……そんな訳で一行はココへ来たのだが。

「見ろよ……コイツは……!」

 ゼノが見つけたのは……

「キャストだわ……しかもかなり古い型……スリープ状態で辛うじて延命しながら今まで保ってたのね」

 赤い装甲の女性型キャスト……年式は相当古いものらしく、アフィンが照合した情報によると、何と一部は30数年も前に一部の第1世代キャストで使われていた物らしい。

「シャオには許可取れたわ、救援が到着次第……すぐに回収して撤収するわよ」

 ユクリータが本部と通信で話を付けると、回収班が合流してくれるらしい……
アフィンが誘導ビーコンを設置し、皆で回収班の到着を待つ間……芙蓉は部屋の隅で黒杖に話し掛けていた。

『妾の手元に無かった頃、ココでは何が行われておったのじゃ?』

-《 Ja, es scheint, dass wir hier “erworbene Umgestaltung der Ökologie” durchgeführt haben.
Zweifellos habe ich auch das Protokoll aufgenommen. 》-

『ふぅむ、後天的改造……とはのぅ』

 訝しむ芙蓉だが、黒杖の開いたホロモニターに流れる様々な情報が、嘘偽りなくこの場所が「種族の後天的変更」を行っていた施設だと指し示している。

 通常ならば、身体機能の不全や能力に適合できない個体を、後天的にキャスト化する以外は種族の後天的変更は倫理問題もあって認められておらず、況してや現在はそういった事もほぼ無い為、種族の改変などは基本的にありえなかった。

 大昔の存在であった芙蓉も、シャオからこの経緯を事前に説明されている為、延命措置以外の後天的種族変更はありえないと理解していたのだ。

「じゃあ、このキャストって……」

「おそらく、実験台でキャストにされちまった……可能性もあるな」

 アフィンの声に、ゼノが重苦しい現実を返す……確定ではないにしろ、もしそれが事実なら、目が覚めた後の彼女は絶望してしまうのではないだろうか。

「この人がどうなるかは分からないけど……フォローはしてあげたいわね」

 エコーの言葉に「そうだな」と返すゼノ……アフィンとユクリータも「だよな」「それもそうね」と同意を示す。

『全くお主らは……揃いも揃って世話焼き好きじゃのう……まぁ、それがお主らの良さじゃて』

 苦笑しつつもそれは良い事じゃ、と芙蓉は肯定的に受け止めた。
その後無事に回収班が合流し、放置されていた女性キャストはアークスへと30数年ぶりに帰還することになった。




- 次回予告 -

30数年ぶりに帰還した女性キャスト
だが、彼女を見た「ある2人」はそんな事はありえないと驚愕する

彼女の正体は?
そして明らかになる40年前の出来事……

次回、PSO2-ACE’s
第21話「過去より蘇りしもの」

それは大切な過去の思い出、そして戦士の矜持……

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