「・・・変身!」
叫ぶ声と共に4人は迷いなくそれぞれ動き出す
最初に変身したのはUKAMだった
携帯端末の様なパーツをベルトのスロットへ差し込み、横に倒してベルトにロックする
『Complete!』
直後、ベルトから赤く輝くフォトンの帯が身体に沿って走り出し・・・その後激しい発光が始まるがそれはすぐに収まった
そしてUKAMは先程までのアークス用戦闘スーツとは違う、赤く太いフォトンラインと銀色の装甲が目立つプロテクター付きのスーツを纏っていた
隣に立っていた龍鬼も、自身が持っていた鬼の面にも見える金属の塊を指で弾く
それはこの戦場に不釣り合いな程の綺麗で透き通った音を響かせる・・・音叉と呼ばれる楽器に良く似た物だった
龍鬼はそれを額に近づけると音叉と同じ鬼面が浮かび上がり、直後龍鬼の身体は紫の炎に包まれた
その龍鬼を挟んでUKAMの反対側に居た白いキャスト、sukeixisuもまた、装着したベルトの右側に飛び出したキーを捻り、左手首のユニットヘ小さなパーツをスロットイン・・・そのままレバーの様に手の甲側へ動かし、全身を伸ばして構える
すぐにsukeixisuの身体は様々な色で彩られた大量の細く緻密なフォトンラインに包まれていき、頭部のデザインがそれまでのシンプルなバイザー型から緻密なデザインが目を引く双眸のゴーグル型へと変化、全身の装甲も赤く変色しながらスマートかつ空力を考慮したデザインへと変貌を遂げた
同時に龍鬼も燃え盛る紫の炎を一気に振り払い、黒コートの上から紫色が怪しく光るプロテクターを纏って現れる
その直近をどこからともなく現れた昆虫型の小型メカが横切り、シナノの手に収まる・・・そしてシナノは迷いなく昆虫メカをベルトへ近付けセットした
『HENSHIN』
機械の合成音声と共に全身が六角形の小さな金属で包まれていき、僅か一秒ほどで剥がれていく・・・そしてシナノもまた、先程とは違う赤眼緑甲の全身スーツに身を包み、マフラーを風に靡かせて立っていた
『・・・な・・・なんなんですか、それは・・・!?』
一連の過程を全てモニターで見続けていたシエラは、眼の前で起こった状況の変化・・・4人の変貌ぶりに素っ頓狂な声を上げた
『MRS・・・どうやら、間に合ったみたいだね・・・。』
シエラの後ろからシャオがモニターを覗き込んでいた
「MRS? 何なんですか、それって?」
MRS・・・それは現行のフォトン技術では対処しきれない状況下において、特定フォトンの行使や戦闘行動を可能にする為の代替方法として過去に水面下で研究されていたものの1つである
しかし、システムの使用には個人の才能や適性が大きく影響する他、一部ではシステムに適合しない場合に最悪被験者が死亡する事例すら起きていた為、【敗者】事変後に研究は凍結され、そのまま日の目を見る事はないはずであった
しかし、深遠なる闇との戦闘データや壊世区域での調査から、今後予測される不測の事態への対抗手段として最も完成度が高かった為、シャオの直接管理の元、一部研究が再開されていた
「他にも幾つか理由はあるけど、現状で最も可能性と有効度が高かったのが他に存在しなかったからね・・・。」
シャオとしても、このMRSの研究が良い事ではないと思っている為、苦渋の決断だったであろう
しかし、現状の様な事態・・・異質な力を行使するダークファルスの登場や今後起こり得るであろう不測の事態に対抗する為、武器職人ジグを始め関連系統の有識者と研究者を集め、可能な限りデメリットを排除したシステム構築を急がせていたのであった
そしてその成果が、ベルトを始めとしたシナノ達4人が持つアイテムであった
「さぁ、ここからが本番だ!」
シナノを先頭に4人がそれぞれファイティングポーズを取る
それまで黒い女は黙って見ているだけだったが、調子付いたシナノ達の行動に怒りを覚えたらしく、青筋を立てて言い放った
「調子に乗るんじゃないわよ、アークスの虫ケラ共・・・4人まとめて捻り潰してあげるわ!」
「フン、いっちょ前に吠えるじゃない。」
「マァ、俺達モ実力ヲマダ奴ニ見セテナイカラナ・・・アア、見セテモ理解デキナキャソレマデカ?」
「俺達がコレを使いこなせなきゃ、お役御免だしついでに未来もヤバい・・・状況的には俺ら結構ピンチなんだけどな。」
「ま、なるようにしかならんさ・・・そんじゃま、覚悟しなよ黒女!」
UKAM、龍鬼、sukeixisu、シナノ・・・ついに4人とダークファルスと思しき黒女がついに本気の戦闘を開始する
-アークスシップ4番艦アンスール・市街地エリア ファルクスラボ-
市街地エリアの戦闘をモニター越しに見ていたのは、艦橋のシエラ達だけではなく
シナノ達にアイテムを渡した主・・・ジグ爺とファルクスもだった
ファルクスはアークスとして活動しつつも、本業はフォトンエネルギー関連の研究者でもあり、シャオ直々の新装備開発でジグ爺と共同で「あのアイテム」を開発したのである
『おっけ~、3人のベルト届け終わったよ~』
「流石じゃな、嬢ちゃん・・・まさか航空隊を使うとは。」
「彼女は道場の関係もあって非常に顔が広いですからね。」
彼女・・・戦闘機隊を足代わりにシナノ達へベルトを届けた透火の事だ
彼女もまたアークスと別に副業がある、それは剣術道場だった
オラクルでは、アークス以外に実戦という環境が皆無であり、戦闘行為そのものが一般に対して在り得ない状態である
この為、剣術道場など武術を代表する道場はほぼ全て、一般人向けにスポーツと化した練度の低いものが大半だ、しかし透火の道場は古式武術・・・いわゆる「活人剣」や「殺人剣」等と呼ばれ歴史に名を残した偉人たちの剣技を伝える場であった
今ではスポーツ剣術が一般的なオラクルにおいて古式武術は「失われた技術」として希少価値が高く、正式に認められている道場主は「人間国宝」クラスの待遇で扱われている
透火もまた、今や失われた古流武術を世に伝える道場主という役目を負った「要人」なのだ
(まったくそう見えないが)
「あとは、彼らの頑張り次第じゃな・・・」
「そうですね・・・シナノ、負けるなよ。」
ちょうどその頃、ファルクスとジグ爺のいるラボの外で「ある人物たち」が遭遇していた・・・
-アークスシップ4番艦アンスール・市街地エリア・外-
ラボを外からじっと眺める人物が1人・・・
その男は全身真っ黒・・・そう、別の場所でシナノ達が戦っているあの黒女とほぼ同じ、ダークファルスの人型形態に酷似した格好だった
「此処か? ・・・感覚が阻害されているな・・・。」
黒男は誰かの居場所を確かめるように、気配でずっと探っている・・・
だが、正確な場所を測り攝ているようであった
「む、この気配・・・!」
「その施設へ何の用だ? 返答次第では・・・」
黒男は別方向から来た白キャストの姿が確認できたと同時にその場から消え、次の瞬間白キャストの背後へ回り込み、鈍く光る長い爪で斬りかかる
「ガキィン!!」
だが、白キャストは慣れたものの様に巨大な箱のような獲物・・・あの時破損して以来、使っていなかったはずの刀、創世器「世果」の鞘で受け止めた
「ほぅ、挨拶もなしに斬り掛かるか・・・
それは私を最初から何者かと認識した上での行動、つまり・・・」
白キャストは黒男に向かってゆっくりと構え直し
「私を六芒均衡の一、レギアスと知っての行動か?」
白いキャスト・・・レギアスは自ら名乗り、世果を握り直した
「六芒の一・・・一筋縄ではいかんか」
黒男もまた、爪を剥き出しにしてレギアスに対し臨戦態勢をとった
この状況は双方にとっての想定外・・・しかし、相手は己を敵として認識し、現に敵対心を以て構えている
この瞬間、立場は違えども黒男とレギアスの心境は完全にシンクロしていた
そしてこの2人が次にとった行動は・・・
「ギャリィン!! ギィン!! ガキィン!!」
黒男はその鋭い爪を以て、陣乗ならざる速度でレギアスの正面から連続の斬撃を浴びせかけ、その隙に側面から一太刀で致命傷を与えよう・・・としたが、その行動自体がレギアスには筒抜けだった
「ガギンッ!!」
六芒均衡の名は伊達でも飾りでもない、そしてレギアスほど長い実戦経験を持ち、かつ自己研鑽を怠らない者はそうそう居ない
経験と勘・・・口で言えば軽いものだが、実戦においてそれ以上の要素ほど戦局を左右するものは他にない
こと、刀剣を武器とする戦闘では最も無視できない要素だ
「・・・並のアークスであれば、今ので決まっていただろうが・・・」
力を込めて黒男を押し退け、レギアスは再び構え直す
黒男も最初から決められるとは考えてない、隙を伺いながらジワジワと前後左右に揺さぶりを掛けつつ、次の攻撃のチャンスを待っている
直後、先に動いたのはレギアスであった
ガードを固めたまま前進し、黒男の意表を突く形で状況を崩しそのまま間合いを調整、世果を盾に見立てシールドバッシュ・・・封印でもある巨大な世果の鞘だからこその芸当だ
大きく間合いを離され後退する黒男、後退する際に舌打ちが聞こえた
「チッ、キサマの存在は想定外だ・・・ここは出直すか・・・?」
黒男が去り際に細い針のような武器をレギアスに投げつけようとした・・・が黒男は突然現れた別の気配に気が付き、隙を突かれまいとそちらへ投げ付けた
「キィンキンキキンッ!!」
黒男が投げた針は小さな金属音と共に地面へ落ち、刀を収めながら2人の人影が現れた
『不意を付いた訳ではないが・・・随分な挨拶を。』
「・・・突然なにか投げられたと思ったら、何なんですかこの状況!?」
上空には戦闘機、そして刀を収める女性・・・戦場にミスマッチな煽情的薄着に大きな飾り羽根が目立つ羽織の人ならざる雰囲気を纏う麗女と・・・そして少し前にシナノ達へ例の装備を届け、ラボへ戻って来た透火だった
To be continued…