序章3 神をも下す悪意

「…やれやれ、お主らは「しょうかいにんむ」とやらで来ておるのであろう?
見ておればさっきから痴話喧嘩やら夫婦喧嘩の様な事ばかり……お主ら、暇なのか?」

手に持った扇子をパチリと閉じ、半ば呆れ顔を浮かべつつ目の前のアークス二人にツッコむ少女
彼女こそ惑星ハルコタンの神にして灰の巫女「スクナヒメ」だ

「痴話喧嘩って、コイツとはそんなんじゃねぇよ?!」
「夫婦喧嘩って、まだそんな関係じゃないわよ?!」

そしてそのツッコミに寸分の時間差なく反論するのは六芒均衡の四「ゼノ」とその幼馴染の「エコー」

「妾の前でなくとも、そんな痴態を目の前で見せられれば、呆れられて当然じゃな。」

慌てて体裁を繕うゼノとエコーだが、もう遅い
精神的ダメージを受けつつも、哨戒に戻る2人を見つめ…スクナヒメは思った

(妾の父と母も、あの戦がなければ…ああいう姿をいつか見れたのかもな。)

未練がないといえば嘘になる…しかし、取り戻す事はできない時間…そう切り捨て、スクナヒメは空を見上げた
一瞬、何かの影が横切ったような気配…そして次に訪れたのはあり得ない事であった

「…何じゃ、お主ら…!?」

周囲を囲む白ノ民、ただならぬ雰囲気を放ち、5人の白ノ民がスクナヒメを囲む様に立つ …その眼には意志の光がない…星の加護があるというのに操られているのだ

「妾に手を出す事は、如何な愚か者であっても凡愚の極みと知っての所業か?」

そう言い放ち、扇子を手に臨戦態勢に移るスクナヒメ…しかし
いくら身の危険があると言っても、相手は白ノ民…手に掛けたくないと自制心が働いてしまう
ゼノとエコーを呼んだとして同じ結果だろう…後々厄介な事になりかねない
その時、怪しく響く声が聞こえた

「…やっぱりね、神様って言っても所詮は力だけ…特に、アナタみたいなのは簡単に引っ掛かるわねぇ。」

「誰じゃ!? 白ノ民を弄ぶ愚か者め…灰の神子である妾の力を恐れてか!」

少し間が空き、声の主は近くの屋根上にその姿を表した
服も髪も、全てが漆黒…そこに女性らしい白い肌が浮いて奇妙なコントラストを描き妖艶な雰囲気さえ醸しだす…服には赤い血のような装飾ラインに六角模様…
その姿はまさにダークファルスそのものだった

「初めまして、そして、さようなら…」

言葉とともに腕を掲げ、巨大なエネルギー弾を生み出す女
白ノ民に囲まれたスクナヒメは驚愕し、結界で防御しようとするがその手を白ノ民に止められ、成す術なく攻撃を受けてしまいそうになっていた
しかし、そこに響いた声…

『待てぇ~い!』

声と共に凄まじい速度で黒い女へ迫る人影…
その影は黒い女のすぐ上へ鉄拳一閃、溜め中だったエネルギー弾を一撃で上空へ弾き飛ばしたのだ

「な…!? おのれ…ッ!?」

驚愕するのも一瞬、黒い女はその人影を追撃するべく手を動かすが
眼前を一発のフォトン弾が掠めていった

「チッ、そう簡単には当たってくれねぇか…。」
「スクナヒメ様、ご無事ですか!」

声のした方向には、先ほど2人で連れ立っていたゼノとエコー
そして、スクナヒメを拘束する白ノ民を牽制するかの様に剣を構えるコトシロ
黒い女を強襲した人影は既にその場を離れ、向かいの屋根の上でいつものポーズを取っていた

「困っているフォトンを感じ、六芒均衡の六にして正義の執行者…
俺ことヒューイ! ただいま到着ッ!!」

ビシっと決めポーズを取るヒューイだが、誰もその姿を見ることはなく
全ての視線はスクナヒメを襲った黒い女へ注がれていた

「く…っ、誰も俺の勇姿を見ていない…だと…!」
「く…っ、あと少しで邪魔者を消せたのに…!」

ヒューイの慟哭と黒い女の言葉が重なり、奇妙な雰囲気…
だが、それもすぐ掻き消え、黒い女はその姿を闇に溶け込ませ、去っていった
同時にスクナヒメを拘束していた白ノ民たちも糸が切れたように倒れる、洗脳が解けたようだ
そう間を置かず意識を取り戻し始め、周囲を見回して困惑し始める白ノ民たち

「スクナヒメ様、ご無事で何よりです…」

剣を収め、跪いて確認を取るコトシロ
そこへ「助けに来るのならばもっと急いで来ぬか! この阿呆が!」と1発
スクナヒメは扇子でコトシロの頭を殴る
明らかにムチャ振り的な文句だが、それはいつもの事である

「やれやれ、お主らアークスには本当に世話になってばかりじゃな…。」

黒い女が去り、溜め息を吐きながらも礼をいうスクナヒメ
アークス達の働きはハルコタン各地でも話題になっている
散発的に襲ってくる黒ノ民やダーカーを相手に猛然と乱入し、時に圧倒…時に協力して撃退している
白ノ民の一部でも、彼らの支援や協力はありがたいと言われている事もあった

「いやはや、急にコイツから呼び止められて『スクナヒメ様が危険だ!』ってな。
ムチャクチャヤバそうな雰囲気だったからな、何とかシャオに話付けてとんぼ返りして来て正解だったぜ。」

コトシロを指し、経緯を語るゼノ
エコーも話に加わり、先ほどの黒い女の話題に切り替わった

「…けど、見たこともない奴だったわね…さっきの女。」
「確かに、姿はダークファルスっぽかったが…前に殺りあった【若人】とは違う… ダークファルスには違いねぇ様だけど…何者なんだ…?」

《…その推論はたぶんハズレだよ、ゼノ…さっそくで悪いけど、状況報告を。》

ゼノとエコーの会話にシャオからの通信が入る
ゼノとエコーによる状況説明の後、直接スクナヒメとも言葉を交わし推測を立てていくシャオ

《…少なくとも、現在までに確認されているダークファルス…
2年前にアークスを取り込んで復活、最後に【双子】と心中するようにして消えた【巨躯】… 10年前にアフィンの姉を依代として復活しようとし【双子】に喰われていた【若人】… 最近までフォトナー最後の1人、ルーサーとしてアークスを我が物としていた【敗者】… そして不気味に沈黙を続けた後【敗者】と【巨躯】を取り込み、「深淵なる闇」の復活を目論んでマトイに討たれた【双子】…
そして今現在において、「深淵なる闇」へと変貌している【仮面】。》

現状…この5人以外のダークファルスは確認されておらず、また、それ以外のダークファルスの情報は 「元【若人】」であるアフィンの姉・ユクリータと「初代【若人】」であったアウロラでも分からない。
つまり、完全に情報のない「新たなダークファルス」という可能性が浮上しているのである。

「…じゃが、「だぁくふぁるす」はその5つ以外に無いのじゃろう?」

確認をするように聞いてくるスクナヒメ、アークスから提供される情報として、最重要項目であるダークファルス…そして「深淵なる闇」に関する情報は今後のハルコタン防衛に際しても無視できない
危険度でいうならば、あの「禍津」と同等かそれ以上と自身も感じているからだ

「そう聞いてるぜ、少なくとも俺たち全員がそうとしか知らねぇからな…」
「私達アークス以外に、ダークファルスの情報を持っている存在がいるのはありえないわけだし…」

《そう、僕達アークスでもダークファルスに関する情報は、副次時に手に入るモノが殆どを占めている… 敵対しているといっても、完全な情報を手に入れる事はできないからね。》

敵対しているが故、お互いの情報は隠蔽し合うのが常…
特にダークファルスは謎な部分が多く「夫々に固有の意思が存在し、尖兵としてダーカーを統べ操る存在」 というレベルの確定情報しかない
「深淵なる闇」に関しては、「情報など無い」に等しいものだ
分かっていることは「惑星ナベリウス上空に度々現れ、星を喰らうことで完全復活を果たそうとしている」
それを毎回、アークス総動員による阻止作戦と、取り込まれながらも意識を保っている【仮面】の能力で辛うじて水際阻止を繰り返している現状だけだ
そして今は、アークスの最大戦力であるマトイと「****(※ストーリー主人公は別存在のため伏せる)」が初回の総動員作戦の後、ダーカー因子の集中浄化の為の冷凍睡眠措置によって戦線離脱…大幅な戦力ダウンをしているのである

《…とにかく、スクナヒメも今後の警戒は十分にしておいたほうが良い。
少し前に、アムドゥスキアの龍族の長「ロ・カミツ」も何者かに襲撃されたという情報が入ってるからね… この件に関しては箝口令を敷く事にする…無闇に話さないでよ?》

「わーってるよ!」
「了解、ゼノは私がちゃ~んと見張りますからね!」

相次ぐ襲撃と目撃された謎の女…アークスの戦いは未だ続く
新たな謎と疑惑を抱え、それでも未来を掴むために…

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