巨体が倒れ込む音と共に特徴的な断末魔を上げてマギサ・メデューナは息絶える。
残るのはあまりの独壇場っぷりに言葉を失ったサラと、してやったり顔でハイタッチを決める双子であった。
「・・・練習・・・練習なのこれで?」
「にゃ? そうにゃよー。」
「単一目標に対しての効果的かつ迅速な対応の一環・・・
その答の一つが、『多数・多方向からの攻撃により目標を釘付けにしたまま殲滅まで持っていく事』。
私たちはそれを2人だけで行えるようにしているだけです。」
淡々と答える瑠那の隣ではしゃぐ眞那。
「当面の目標はボス級大型エネミーを出落ちさせるっ!」
などと斜め上の目標を高らかに宣言した眞那。
サラはというと・・・「勝手にしなさい」とばかりの盛大なため息で2人を見るだけだった。
-同エリア・分割ルートB組-
その同時刻、A組と別れたB組・・・透火・トリニティ・ずんの3人は・・・
「・・・でさ、もうヒドいったらありゃしないんだよ。」
「補助剤使ってもダメだったの?」
「アフターケアにも気を使わないとね、キミの場合はよく拡張前提で組み上げてるから・・・
しっかり受け皿を準備してやるほうが確実性は増すんだよ?」
道中、敵がほとんど居ないのを良い事に装備強化・・・いわゆる特殊能力付与に関する話題で盛り上がっているようだ。
しかし、敵に対する備えは怠っていないらしく、湧くと同時に臨戦態勢へと移行しおよそ瞬殺というレベルで3人の一斉攻撃を浴び、エネミーは消えていった。
「・・・それにしても・・・」
被り物を脱がないずんの表情は読めないが、明らかに誂う気満々の口調で2人を一瞥していた。
「久しぶりの再会なんだし、もう少しいい雰囲気だったら良かったのにねぇ、おふたりさん?」
「は?」
「ほぇ?」
意に反し、素で返答に困る透火とトリニティ・・・ずんは逆に「しまった」と前言を後悔した。
2人とも素で「そういう感情」の機微に疎く、まるで恋愛というモノを忘れて産まれてきたような超ド級の鈍感同士だった。
「・・・あっはは、今のナシ。 敵も少ないし、荒れた部屋ばっかりだから退屈でしょうがないよ。」
乾いた笑みでその場を繕う鯛頭、2人は顔を見合わせ本気で意味不明という表情をした。
-研究施設最深部・タイプD管理室前-
ここまで道中幾つかの研究室があったが、どれも荒らされた形跡があり、めぼしい資料なども残ってはいなかった。
そして、今いるのは「タイプD管理室」と書かれた研究室の扉前。
電源が生きているのか、所々にコンソールらしきホロパネルが見えている、このエリアだけ荒らされた形跡は無く経年劣化による損耗箇所が目立つだけだった。
「ここなら、目ぼしい資料が見つかるかな・・・」
3人は早速パネルにアクセスし、得られたデータを転送する準備を始めた。
ふと、透火は視界の隅に人間が楽に入れる巨大なカプセルのような物を発見する。
近付くとそれには「タイプD型・被験体」とあった。
データ上には「タイプD被験体、完成間近につき最終検証作業中」と書かれた一文があり、所在とアクセス履歴が残っていた。
「ねぇ、コレ・・・」
透火はずんとトリニティを呼び、装置の存在を知らせた。
「このままだとマズイかも・・・最悪のタイミングだ・・・。」
トリニティが言う最悪のタイミング・・・それは装置に付随するホロモニターの表示だった。
表示内容は・・・「タイプD稼働準備、最終チェック完了。 エンドフェーズ、アクティベート完了まで残り14.94sec」
カウントは粛々と進み続けており、残り時間はもう15秒を切っていた。
「中身って・・・エネミーなの?」
「分からない・・・タイプDというのが何なのか不明な訳だし・・・。」
議論してる間にカウントは減り、確実に0へと近付いている。
5、4、3、2、1、0・・・
重苦しい装置の稼働音が鳴り響き、カプセルが開放されていく。
所々から漏れ出た蒸気や液体が流れ出し、繋がれていたパイプ類もはじけ飛ぶように外れていった。
やがて駆動音が収まり、カプセルの扉が全開放された状態で装置は停止。
中から飛び出てくるものも特になく、ただ余韻のように蒸気と液体が周辺に撒き散らされていた。
「中身は・・・?」
「どうやら、まだ動き出してはないようだね。」
恐る恐るカプセルの中を覗き込む3人・・・中にいたのは・・・
「実験体・・・この子が・・・。」
「わぁ、可愛い♪」
「こんなちっちゃい子が入ってたのか。」
透き通った銀色の髪と、まだ10代にも届かないほどの小さな体・・・
その身体には少し大きめな薄布の肌着1枚だけを羽織った少女だった。
透火はその小さな体を抱き上げ、ずんは支給された持ち物から緊急用のセーフティウェアを取り出す。
ウェアを少女へ着せた後、トリニティはその子のバイタルやスキャン結果を照合していった。
「オラクル管理部門に照合要請、バイタルデータとスキャン結果を住民管理データと照合・・・該当件数・・・なし、か・・・どうやらこの子は研究所内で生成された実験体のようだね。」
「じゃあ、この子の親は・・・?」
「妥当な線だと・・・研究員の遺伝子データを利用したか・・・それとも誰かのクローンか・・・。」
≪どれも憶測の域を出ないが、そういう事を考えるのは後回しだ。別働隊と合流して、一度帰還しろ。≫
情報管理官ヒルダからの通信でハッと我に返り、いそいそと移動の準備を始める3人。
少女は透火の腕の中で軽く身動ぎをするだけで、まだ起きることはなかった。
-同エリア・分割ルートA組-
「・・・まったく、あなた達2人とも・・・いつもこんな感じなの?」
呆れ返ったため息とともにサラは眞那と瑠那に質問する。
さも当然のごとくサムズアップで返す2人・・・その顔を見て、サラは自分だけが場違いな感覚に囚われそうになっていた。
そこへ、別働隊B組からの通信が入る。
「ほら2人とも、B組と合流するわよ。 あっちで実験体が回収されたから、あたし達も引き上げよ。」
「は~い!」
「了解。」
-帰還途中 キャンプシップ内-
トリニティ達の本来の任務であった大規模調査団の護衛任務は一足先に終了しており、彼らは別のキャンプシップで帰路についていた。
こちらのシップには透火とサラ、眞那と瑠那の4人が乗っている。
「その子が、向こうで見つけた実験体の子?」
サラは透火の腕の中で未だ眠っている少女を覗き込み、何かしら思案していた。
すると透火から一度離れ、シップの隅でブツブツと誰かとの通信をし始めた。
彼らはまだ、眠るこの少女が、後に引き起こされる大厄災の引き金となることを知らない・・・
だが、賽は投げられた・・・もう後戻りなどできない・・・厄災の足音は、もうすぐそこまで迫っていた。
- 次回予告 -
海底の施設から救出された1人の少女・・・彼女は過去も親も記憶もなく、征く宛のないまま透火へ預けられる。
持って当たり前の笑顔と感情の機微を取り戻すべく奮闘する七日メンバー。
一方、上層部では処分と保護で意見が割れてしまい、シャオとレギアスは直々に少女を尋問することにした。
Phantasy Star Online 2 – Another Character’s Episode –
~ 第2話 過去と記憶と運命と ~
「おい、貴様・・・私の出番はまだなのか?」