第7話 絶望と希望と(前編)

周囲を囲む人影は誰一人として動けず、荒廃する大地の中で動く姿はたった2人
赤と白の残像を互いに交錯させ、レギアスと赤い女性キャストが剣戟を交えていた

「……何故だ、君は……!」

「……とうに察してたんだろう? だったら、そういう事だ!」

剣戟と共に言葉を交わす2人……あまりの出来事に周囲は誰一人として動けず、ただ2人の死闘を黙って見ているしかなかった

« 何をやっている?!
 その場の敵性対象は六芒の一に任せ、貴官らは作戦を続行しろ!!»

オペレーターからの罵声が飛び、ようやく周囲が動き始めた
しかし、その事に女キャストは気にも留める様子などなく、ただひたすらにレギアスへ向けて剣戟と狂気を放っていた

「……なぁ、あの顔……どこかで見たことないか?」

ダーカー殲滅作戦はアークス総動員で行われる浄化作戦である
故に、この現地まで来ているアークスの一部は在籍の長い者も多い……それはもう必然でもあった

「まさか……嘘だろ……『紅蓮の剣姫』?!」

それはまさに集団心理のそれであった

「死んだはずの『紅蓮の剣姫』がダークファルスと化して生きている」

ある者は「超常的なものだ」と、またある者は「容姿が似ているだけで本人ではない」と、またある者は「ダーカーの心理的作戦」だ、と……
内容は様々だがその疑惑は混乱の呼び水となり、浮足立っていた先遣隊の士気を大いに奪っているのは明白だった



- 異常宙域エリア・ダーカーの巣 作戦用仮設拠点内・作戦指揮所 -

「……一体何事ですか、状況を報告してください。」

「拠点外縁部で戦闘? 先程レギアスが様子を見に行くと言っていましたが、その上で何か問題でも?」

先遣隊に追随して先に拠点へと降りていた六芒均衡……情報部のカスラとクーナと共に、作戦指揮監督役としてレギアスは来ていたのだが、外縁部の戦闘にレギアスは出向き、カスラとクーナは状況把握のため仮設の指揮所で連絡を待っていた

「シエラ、貴女の方から状況は掴める?」

« た、た、大変ですよ!
 レギアスと赤い女性の方が物凄い戦ってます!? »

クーナはシエラに問い合わせを試みると同時にシエラは素っ頓狂な声を上げていた

「落ち着きなさいシエラ、貴方が取り乱してどうするんです?」

カスラの一言ですぐに冷静さを取り戻すシエラ、しかし、状況を伝えられたカスラとクーナも、その状況に素っ頓狂な声を上げるしかなかった

« 仮設拠点の外縁部にて、アークスの模倣体と思しき女性と警備担当の人員が戦闘状態に移行。模倣体は化け物じみた強さで警備の人員では歯が立たず、居合わせたレギアスが参戦したんですが……
 その模倣体は40年前に登録を抹消されたはずの有名人さんだったんです! »

「「はぁぁぁぁぁ?!」」

シンクロボイスで素っ頓狂な声を上げるカスラとクーナ
しかし、お互いの顔を見てそれぞれ冷静さを取り戻し、クーナは確認のため外縁部へ、カスラも混乱掌握のため指揮所の外へ出た

「……それで、模倣体の女に関する情報は他にはないのですか?」

シエラへ情報を求めながらも、混乱するアークスの集団をすり抜けながらクーナは走っていた

« は、はい……えっと、50年ほど前に「紅蓮の剣姫」として名を馳せた人物で、【巨躯】戦争時も参戦していた凄腕の人物なんですが、記録上では【巨躯】戦争中に行方不明、以後消息不明となっています。»

「40年前に行方不明って……」

« 当時の記録を追うのが精一杯で、原因についてはシャオに問い合わせてみないと分かりません……
 ですが現在戦闘している模倣体、その戦闘力は当時の「剣姫」そのものと言っても過言ではない様ですよ。»

……アークスの模倣体
シオン喪失の一件より前から、任務中のアークスが失踪する事件は度々起こっていた、しかし、一定レベルの実力者達は生還している事が多く、生還者の証言を元に「無作為に選ばれた対象から戦闘力や多様な情報を模倣し、再現する事で自分達の手駒を増やそうというダーカーの目論見」だと周知され、現在に至るまで本格的に調査される事なく、半ば捨て置かれている案件であった
しかし模倣体とはいえ、相当な実力者の……それも全盛期の能力を完全に再現されたら……そしてそれが世に放たれたとしたら……

「……確かに、捨て置く事など出来ない事態ですね。」

忌々しさと腹立たしさの同居する、引き攣ったような笑みを浮かべながら恨み言を言いそうになる自分を押さえ込んでクーナは呟いた

(十中八九【敗者】か【双子】の絡んだ案件なのでしょうが……
 面倒なモノを今まで後回しにしていたなんて……。)

「シエラ、模倣体に関する情報収集は引き続きお願い、それと……」

人混みをかき分けクーナは現場へと急ぐ、シエラも通信と依頼を受けガッツポーズを取ってみせた

« お任せください! 不肖シエラ、お役に立ってみせます! »

仮設拠点外縁部に到着したクーナが目にしたものは、自らの予想を大幅に上回る惨状だった……周囲には無惨にも巻き込まれ斬り刻まれた死体が散乱し、立つのはレギアスと赤髪の女の2人のみ……
互いに手傷はあるが致命傷には程遠く、闘気を漲らせながら凄まじい剣撃の応酬を繰り返していた

「……これは、迂闊に近寄れませんね。」

「……ふ、もう観客は居ないと思っていたが、あの娘1人だけか。」

刹那の言葉に視界の端を見やり、同じ六芒であるクーナの姿を確認したレギアス

「彼女が手を出すことはない、相手ならば私が務める……構わんな?」

「今更だな、私は常にお前しか見ていないよ……。」

文字通りとも言うべき、これは正に「死合」だった
しかし幾ら六芒と言えども、単独でダークファルス級の相手をして無事では済まない……それを理解しているクーナは少し悩んだが、自身に設けられた特権を行使する

「絶対令(アビス)」……
六芒均衡などアークスのトップや一部にのみ許された、強制命令行使権……同じ権利を持つ者以外のアークスならば、この行使によって戦闘を止める事ができるはず

「すみませんレギアス……無粋は承知ですが、貴方を失う訳には行きません!!」

クーナの眼前に六芒均衡の紋章が描かれ、手を振ると同時に虚空へと消える、しかしこれが「絶対令」発動のサインであり、行使対象である刹那は戦闘行動を止める……はずであった

「……何をしたのか知らんが、無粋だぞ?」

言葉と共に眼前に現れる刹那、先程からレギアスと立ち合っていた場所からある程度の距離は取っていたはずだが、この数瞬で詰められている

手にした刃を振り下ろす直前、何かを察して赤髪を揺らし刹那はその場を飛び退いた

それとほぼ同時に銃声と着弾音、その僅かな間にクーナには防御能力を向上させる補助テクニック「デバンド」が掛けられていた

「……やれやれ、無粋な輩がまた増えたのか?」

刹那が見やる先に立っていたのは、レギアスとは違う白装束……
 アサルトライフルを手に膝立ちから狙撃を繰り出したのはトリニティ、その隣にはまるで巻き貝の古代生物の如き形状をしたタリス「燐具フローレンベルク」を手にした六芒均衡の参、カスラの姿があった

≪ お二人とも気を付けてください!
 相手の動きが速すぎて……背後を取られると危険です!!≫

合流したトリニティとクーナとカスラは3人で背中を合わせ、次に現れる刹那の姿を捉えようと必死だったが、当の刹那本人は「興が削がれた」とばかりに不機嫌顔を浮かべ、近くにあった高台へと移動していた

「……興ざめだよ、レギアス……そのような温い刃では、私には届かん。
 もっと殺気を込めろ、感情を曝け出せ、私にその思いをぶつけてみせろ!!」

「刹那……私はお前と戦う気はない。」

「……その選択はいずれキミの護りたかったものを壊すことになるぞ?」

剣呑な気を撒き散らし、レギアスを睨む刹那
対するレギアスは哀しみに満ち溢れた眼で刹那の顔をまっすぐ見つめている
やがて刹那の放つ剣呑な気は嘘のように消え去り、それと同時に刹那も姿を消した

「……大丈夫ですか、クーナ?」

気配が消えたとはいえ、此処は敵の陣地……カスラは周囲を警戒しながらクーナへ言葉をかける

「今回ばかりは、正直助かりました……。」

クーナも表情こそ変えなかったが、内心ホッとしていた
剣を納めたレギアスにトリニティもライフルを納め、刹那の真意と真偽を問うた

「……アレが、僕たちの……。」

「……太刀筋や声、持つ気は同じだ、だが根本的に違うものもあった……。
 アレは模倣体だ……、当人を模したダーカーの尖兵……倒すべき存在だ。」

それは慟哭とも取れる言葉……模倣体とはいえ実の母親の狂気を目の当たりにしてしまった彼に対し、レギアスは掛ける言葉を失う、しかし自らの感覚と経験、そしてかつての戦友として、レギアスは過去の自戒と誓いを再認識するかのように、自らに言い聞かせる様に言葉を絞り出した

「……了解。」

トリニティもまた、言葉の裏に秘められた覚悟と意思を汲み取ったのか、なるべく感情を表に出さぬよう、ただ一言を放つ
カスラとクーナは、ただ黙って2人を見るしかなかった

To be continued…

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