第13話 運命(後編)

市街地上空……認識偽装を使ったままビルの屋上で佇む黒尽くめの影が1人
【傲慢】はあるものを探すように気配を辿っていた

やがて、微かな気配と力の流れを感じ取る事に成功し、その端正な顔を醜く歪めた

「……ククク、やっぱりここに居たわね……!」

その視線は虚空……いや、眼下の市街地のある場所……シェルターへと避難する人混みの中、その中の1人に注がれていた





アークスシップ4番艦 アンスール・市街地

「彩さま、大丈夫ですか?」

この場には似つかわしくないメイド服姿で周囲を警戒する小柄な少女……瑠那は、シェルターへの行列の少女を心配して声を掛ける

「……だいじょうぶだよ、お姉ちゃん」

彩さまと呼ばれた少女……彩火は瑠那に心配をかけさせまいと気丈に振る舞う
困惑した表情ながらもしっかりした物言いに、瑠那は一瞬だけ顔を緩め、再び周囲の警戒へと戻る
戦闘が激化し、民間人にもダーカーの襲撃があちこちで発生したため、上層部は民間人の避難誘導に近隣のアークス達を動員させ……そのメンバーだった瑠那はその中で状況に混乱していた彩火を見つけ、シェルターへの行列へと合流していたのだった

「君も増援のアークスか?
 俺は戦闘可能な人員が少ない列の後方に回るからココを頼む!」

量産型のアサルトライフルを手にした中年のアークスが瑠那にこの場を預け、装甲車のメンバーと合流して列の後方へと走っていった

(……しかし、解せませんね……以前よりもこのような襲撃は減っていた筈ですが……)

周囲を警戒しつつ、瑠那は思案する
確かにここ最近の直接襲撃はかなり減っていたはず……前回から日数にして約10日前後ほど間隔も開いていたのだ、その前の襲撃はなんと1ヶ月ほど前でもあった

「……この奇妙なタイミングの襲撃、なにか切り札でもあると言うの?」

一瞬だけ瑠那は最悪のシナリオを想像してしまい、慌ててその考えを振り払う
自分だけならともかく、背後の民間人の行列には兄と親しい人物の妹がいる……彼女も含め誰にも手を出させる訳にはいかない

……だが、その思いも虚しく突然現れた黒い影に瑠那の意識は一瞬で刈り取られた



「……えちゃん……おねえ……ちゃん!」

聞き慣れた声が悲壮感一杯に聞こえてくる……僅かな時間思考が止まるがすぐに振り払い、瑠那は倒れていた体をすぐに立ち上がらせ、自分を呼ぶ声の主とその少女を小脇に抱える黒ずくめの存在を睨みつけた

「……やってくれましたね」

「フフフ、さすがの頑丈さね……G系の生き残り」

「何のことでしょうか? 私はメイドですので主の許可なく地に伏せたままこの状況を見過ごす事など赦されません」

内心では動揺する瑠那だったが、表情には出さず関係ないと切り捨てて強がる……相手も大してその言動を気にせず、しかして人質とした彩火を離す気配も感じられない

「でも私はこの娘に用があってね……見逃して貰えると……」

「それは出来ない相談です!」

瑠那は相手の言葉が終わる前に行動を開始、彩火と黒尽くめを分断するべく飛翔剣「イグニス」を手にし、飛翔剣スキルでフォトンブレードを展開……黒尽くめの顔の両脇を狙い動揺を誘うべく投擲する、黒尽くめは一瞬動揺したがすぐに余裕の笑みへと戻り空いた手で払い落とす、瑠那もそれで隙を突けるとは思っておらず、距離を詰めてイグニスの刀身を黒尽くめの肩へ逆袈裟斬りに切り上げた、黒尽くめも即反応し黒いフォトンの爪で防御した後、体勢を変えてお返しとばかりに回し蹴りを繰り出してきた、瑠那は冷静にその蹴撃をイグニスの刀身で往なそうとするが、蹴りのベクトルが急に変わって瑠那の頭上へ踵が迫る

「……くっ……!」

チャンスを潰され瑠那は舌打ちと同時に距離を離し、武器を双機銃「イーグルフリント」へと持ち替えて黒尽くめの頭を狙い撃った
黒尽くめは難なくその狙撃を爪で弾き、状況は最初とほぼ同じに戻ってしまう

「おやおや、意外と物騒なメイドだねぇ……そんなにこの娘が大事かい?
 残念ながらこちらもこの娘は大切なんでね、今回は去らせてもら……」

一閃、黒尽くめの姿が一瞬で消え、不意打ちに失敗した抜剣が黒尽くめの居た足元へと突き刺さる

「……チッ、逃げ足の速い奴……その娘を離すのニャ!」

遅れて刺さった抜剣の側に現れた巫女装束のネコミミ少女……眞那は刺さった抜剣「オロチアギト」を抜いて鞘に収め直すと、攻撃を躱していた黒尽くめの方を見やる
黒尽くめはその位置こそ前より少し高い瓦礫の上へと移動しており、その傍らには変わらず彩火が小脇に抱えられたままであった

「ハハッ、離せだって? 君も聞いていたんだろ
 私はこの娘に用があるのだよ……離すわけがないだろう?」

抱えられた彩火は気絶させられているのか、ぐったりとして動かない
状況は不利ながら、退く訳には行かない姉妹は武器を握り直して黒尽くめを睨みつける

「……不快な眼だ、気が変わったよ……分不相応なキミ達に絶望を教えてあげる!」

眞那と瑠那の反抗的な態度が感に触ったのか、黒尽くめは急に態度を変えて敵意を剥き出しにし始める

「御託はいいニャ、掛かってきニャ!」
「御託は不要よ、掛かってきなさい!」

勢いのままに2人は散開、眞那は「カタナコンバット」、瑠那は「チェイントリガー」を発動……不規則な曲線を描きつつ突撃してくる

先に突出したのは瑠那、「グリムバラージュ」で急激に直線軌道へ切り替わり黒尽くめに迫る……軽くあしらう様に黒尽くめは爪の形状と同じ飛び道具を放ってくるが、それをカタナコンバット状態の眞那が迎撃し、正確に弾き返して黒尽くめの視線を強制的に逸らさせた
そのまま眞那は背後に回り込み、正面から突っ込んでくる瑠那と黒尽くめを挟撃、まるでシンクロしているかの如く器用に黒尽くめの爪攻撃を捌きつつ的確にダメージを入れていく……

「調子に乗るんじゃないわよ!!」

黒尽くめは回転攻撃で同時に攻撃しようとするが、逆に読まれた形で足払いと斬り下ろしのカウンターを喰らい、そのまま地面に縫い付けられる……直前に黒尽くめは脱出できたが、代わりに人質を奪還されてしまう

「……くっ、この……!?」

再度、彩火を捕獲しようと黒尽くめは瞬間移動を駆使して距離を縮めようとするが、そこへ大量の弾丸と斬撃とテクニックの嵐が進路を阻み、遠ざけられてしまった

「……よぉ、アンタが例の黒尽くめ……ダークファルスって奴かい?
 ちょっくら遊んでけよ、お代は要らねぇぜ!!」

荒々しい口調で挑発する老齢のアークス、彼の後ろには大勢のアークス達がそれぞれ武器を構えていた、その中には双子も見覚えのある人物が混ざっている

「2人とも! はやくその娘を連れてこっちへ!! いくよ皆!」

「シャインさんこそ、遅れないでよ?」
「……あぁ、彼女達が逃げるための時間を稼ぐのは良いが……別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」
「ちょ……ダークファルス相手にフラグ建てないでよ?!」
「ハイハイ、イッチーちゃんと自分でフラグは回収してよ~?」
「あたしが言うのも何だけど……緊張感の欠片もねぇよなこのチーム……」

透火と交流のある10番艦ナウシズのチーム、エスカリボルグのメンバー達だ
リーダーであるシャインブルーを筆頭に、アヘ顔に改造されたラッピースーツ姿にイケメンボイスのichigo3、ツッコミを入れたのは小柄な眼鏡少女の祭莉、回収の忠告を入れたのは月-γμηα-、そして最後の発言者がティア・レスティ……仲良し5人組がそれぞれ黒尽くめ相手に攻撃を仕掛けていく、だが、その態度は戦闘という緊迫した状況においても普段と変わらぬ仲間内の会話を交えるという緊張感の欠片もないモノだった

しかし、攻撃されている当の黒尽くめは、不規則に多方向から遅い来る攻撃に手一杯な上、攻撃とは全く関係ない言葉のやり取りに精神的にも削られている……端からみればそれはどう見ても私刑レベルの嫌がらせと言っても過言ではなかった

「えぇい、五月蠅いわァ!!」

鬱憤と共に力を開放し、人型から戦闘形態へと変化する黒尽くめ……その姿はかつてのファルス・アンゲルの様な漆黒の翼を持っていたが、その周囲には薄く炎が揺らめき、心做しか気温も上昇している……

「私こそダークファルス【傲慢】! 貴様ら全員……骨まで焼き尽くしてやるわ!!」

戦闘形態を開放した黒尽くめは自らの名を晒し、爆炎と共にアークスへと飛び掛かかる
戦闘の光景を離れて見ていた双子だったが、異様な気配に振り向く直前、意識を刈り取られその場に倒れてしまう
双子の異変にエスカリの5人がすぐさま気付いたのだが、そこに立っていたのはもう1人の黒尽くめの男と、彼に抱えられた少女……彩火だった




次回予告

救援に駆けつけたアークス達と戦う【傲慢】の影で
もう1人の黒尽くめ……【怠惰】が彩火を攫ってしまう
【傲慢】の攻撃で彩火を見失い、更に瀕死の重症を負う瑠那の姿を見て
皆の信頼と妹達を失う可能性を恐れた眞那は、その絶望から精神の均衡を失い暴走……

一方、【嫉妬】を辛くも撤退させ地上施設へと戻ってきた生き残り達にも
【傲慢】の襲撃が伝わり、戦える者は現場へと急ぐ……そして目にした光景は
大量のダーカーと【傲慢】……そして絶望の雨に叫ぶ白い獣だった



次回 PSO2-ACE’s
第14話 絶望の雨に吠えるもの

心の傷……それを癒せるのは何か……?

次回の更新は5/27の予定です、お楽しみに♪

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA