第18話 鈴の音響かせし「芙蓉」の花

「……フォトナー、だと?」

「アイツ、他ノ奴トハ気配ガ違ウ……本当ニ奴ハフォトナー、カ?」

「本人がそう言っちまってるんだから……なぁ?」

「俺が知るかよ!?」

 正に彼らの目の前で起きている事実……しかし、誰一人としてその事実を受け入れるには誰もが少々時間が掛かるだろう
 まさか、遠い昔に絶滅したはずの始祖存在「フォトナー」が突然現れたのだから……

 そして、違う理由ながら動揺しているのは【災禍】とて同じだった

『……離れろ……ッグ……!!』

 芙蓉の放つ鈴の音……【災禍】にとっては、この上なく不快極まりない音色……ガラス細工とも言えそうな程透き通った音色は、精神を混沌に落とした【災禍】にとって劇毒に等しい音色であった……空間内に容赦なく反響する鈴の音は、【災禍】の精神を只管に疲弊させていたのだった

「……おやまぁ、彩よ……何故、そんな似合わん格好をしておる?
 主にはその様な姿は似合わぬ……早う元の可愛い……」

 芙蓉の言葉を遮るようにエネルギー波を発し、その隙に姿を眩ます【災禍】
 エネルギー波を避けながら呆れた様な溜息を吐いた芙蓉は、自身の腕の中で死にかけている透火を注意深く観察する事にした

「……ふむ、少々手間は掛かるが……致し方有るまいて」

 そう言って芙蓉は自らの横に浮かぶ黒杖に視線を移す……まるで意思を持っている様に反応した黒杖が芙蓉から少し離れ、手近な大地に複雑な陣を描き始めた

「……その娘をどうする気だ?」

 若干、恐ろしさ混じりのシナノの声……だが、芙蓉は優しく頬笑みながらシナノの質問にこう返した

「この娘は死出の旅に出ようとしておる……じゃが、妾はこの娘に死んで欲しくはない……彩の心の支えじゃからな、故に妾が何とかしよう」

 既に瀕死の重症、しかも今から搬送したとしても助かる見込みは欠片も無いほど危険な状態だ、それをこの場で何とかする力がこのフォトナーにはあるというのか
 シナノは逡巡するが、もう猶予など1秒もなかった

「……頼む」

「あい分かった、決して悪い様にはせぬよ」

 シナノの頼みを聞き入れ、芙蓉は優しくシナノに返して透火を抱えたまま陣の中央へと立つ
 カン、と初めて芙蓉の履いていた下駄が音を立て、陣が青白い光を放ち始める

「この娘……妾の力と相性が良い、じゃがこのまま外からでは埒が開かぬな」

 芙蓉が呟く……その意図が掴めないシナノ達だが、次に起こった事は間違いなく驚愕するであろう事態だった

Ego et tibi ductus ab pristini contractus dissipatum est vas mutuo acceperam
<我、契約の元汝が器を借り受けし者>
Anima mea usque ad tempus et aeternitatem
<彼の魂は我が袂に在りて悠久の時を迎える>
Sed neque me hominem quem evanescent
<然して消えるべからず者なり>
Uti potentia animae sicut cuneum de exponentia
<我が魂を楔とし、力を綴れ>
Hac tum praetoria nave in artiorem uelut cuneum dare caelum et terram, ut ad sanitatem potentiae satiat
<この器に天地の楔を施し、癒やしの力を満たせ>

聞き慣れない言語の呪文、それに合わせて発光の度合いが激しくなる足元の陣
……そして呪文を紡ぎ終え、凄まじい光量で全てが白に包まれる




「この娘には少し窮屈な思いをさせるが、身体を癒やし終える迄の辛抱じゃ……赦せ」

 そんな言葉を発しながら、不思議な雰囲気を纏った少女が空中から降りてくる……シナノ達は何が起こったのか一瞬分からず、思考も停止していた

 だが目の前に立つ少女は、かつての面影を残しつつも纏う雰囲気や気配、そしてその髪色や瞳などの細部は激変している……そして口調はどう見ても、先程まで奇妙な呪文を唱えていた芙蓉のものだった

 そして特徴であったポニーテールを解き、少女は今の状態を簡潔に伝えた

「妾が直接、この娘に入り傷を癒やす……安心せよ、この娘の魂は何処にも消えておらぬ……が、表に出れぬ故暫くはこのままじゃがな……」

 フォトナーの常識が疑われる瞬間、これもその一つではないだろうか?

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