キリトとアスナ、2人がパティエンティアの2人に捕まった頃……
ヒツギ達も不思議な出会いをしていた……
マグらしき妖精型のデバイスを連れた、緑の三角帽子にニューマンの長い耳……そして物語から出てきたばかりの様なファンタジー感溢れる服を身に付けた、金髪の少年と……左目に裂傷の痕がある、銀髪に海賊風の服……青いラークバルバドスを着た男が、互いに壁に凭れ掛かったまま話をしていた。
「ゴメンね、やっと抜け出せた……」
そこへ、先程の人集りを抜け出したマトイがヒツギ達の前へと合流する。
「そう言えば、私達……このお祭り騒ぎの原因が何だか、知らないんだけど……?」
「はぇっ?! そ、それは……!」
この集まりの理由が知りたい、そんなヒツギの質問に何故か瞬間的に顔を赤くするマトイ……エンガとアルは、壁に凭れている2人の方に意識が行っており、マトイの顔を見ていないので気付かない……
ヒツギだけが、マトイのその赤面っぷりで全てを察したのだった。
「……はぁ、そういう事か……この場にコオリが居ないのが救いだわ……」
そう、コオリもアルの方へ行っているので気付いていない……
「……だから、ね……ホントはこんな事になるハズじゃ……」
マトイは赤面したまま、ヒツギにこの状況を作ってしまった詫びをしてくる……だがヒツギはそんなマトイの顔を上げさせてこう言った。
「むしろ、これからがもっと楽しみになったわ! そりゃあ今までの事件に比べたら、一大事でも何でも無い些細な事だけど……それでも私達を呼んでくれたって事は、今後も私達との関係が続けられると信じたからでしょ?
それはむしろ私達からお願いしたかった事だし、私個人としても、オラクルを忘れる……二度と来ないとか、考えられないもん。
だから……ありがとう、マトイ……そして、おめでとう♪」
その頃、当のエンガとアル、そしてコオリはと言うと……
「……マジかよ、あの伝説のゲームの……」
「本当に……ご本人なんですか?」
アルを除いた2人は、心底驚愕していた……
「あぁ、俺の出身はハイラル地方だ……変な泉に落とされて、こっちに迷い込んだ所を助けられてな……戻る方法が見つかるまで、俺はこっちでアークスとして活動してるんだよ……クラス(?)は『ヒーロー』でね。」
「彼と同様、嘘を吐く理由も無いからな……俺は火星圏特装機動部隊『MARZ』所属、第1級特別捜査官のチーフだ……此方では『ラスター』に就いている。」
地球では超有名なファンタジーゲームの1つ「ゼルダの伝説」……そして発表当時、話題となり、今もなお人気の衰えないハイスピードロボットアクション対戦ゲーム「電脳戦機バーチャロン」……その主人公と呼べる超有名な2人が、現実に目の前に存在している……美形キャラ好きなコオリと、ミリタリーマニアらしいエンガが驚くのも当然であった。
そして……パティエンティアの2人に絡まれたキリトとアスナは……
「……ほら、パティちゃん! そっちは違うって! 守護輝士の2人にもう一度取材の申込みするんでしょうが! ……あ、コラ! ちょっとは話を聞けこのバカ姉ぇ!!」
あの2人に、この世界に関する事を聞いた所為で延々とパティの垂れ流し情報を聞かせれるハメになり……小腹が空いたとパティが呟いた事でアスナがテーブルに積まれた料理へと意識を誘導させ、なんとか引き剥がす事に成功したものの……ずっと立ちっぱなしのキリトとアスナは、足がガクガクになっていた。
「……あんな長時間、立ったままで……平然としてるとか……アークスの、身体能力って化け物かよ……」
「さすがに、足ガクガク……あっちに座れそうな、場所あるわね……行きましょ、キリトくん」
疲れきった足に鞭打って、ようやく足の痺れと長話から開放され……ぐったりとする2人。
するとそこへ……
「すみません……相席しても、良いでしょうか?」
「あっ……はい、どうぞ!」
薄紫のロングヘアを、黄色い髪留めでポニーテールにした同年代であろう少女。
……大事そうに抱えたティーセットをテーブルに置き、アスナの向かい側に座って紅茶を飲み始めた。
その独特な香りが周囲に漂い、疲弊したキリト達の精神も徐々に安らいでいく……
すると少女が疲労困憊な2人を見ると、新たに2つティーカップを取り出して紅茶を注ぎ……スッと差し出してきた。
「ずいぶんとお疲れですね……どうぞ、疲労回復の薬効があります」
「「……あ、ありがとうございます……。」」
ありがたく受け取るキリトとアスナ……カップを渡した少女は微笑みながら、ティーセットもテーブルの中央……2人からも取りやすい位置へ移動させながら口を開いた。
「お二人も、守護輝士とお知り合いですか?」
「えぇ、まぁ……」
「最近知り合ったばかりですが、腕試しに時々相手して貰ってます……あ、直接戦闘じゃなくて競争みたいなもんで……」
物腰柔らかだが、何処か人ではない雰囲気を醸し出す少女……キリトは、PSO2内の種族であるキャストだろうと考えていた……
「なんだ、ココに居たのか……大丈夫か? あの2人相手はキツかっただろう……君が助けてくれたのか?」
「いいえ、私は疲労困憊していたお二人に、紅茶を入れて差し上げただけですわ♪」
喧騒を抜け出て、ようやく合流したアッシュの質問に、紅茶の少女は嬉しそうに答えた……一時とはいえ、優雅なティータイムを堪能する相手が出来て嬉しそうだ。
……当の相手は未だ疲労でぐったりしているが。
「なぁ、アッシュ……アークスの実力者って……変人が多いのか?」
キリトの素朴な質問に、アッシュは即座に違うと言い切りたかった……が、一部はその疑問を持たざるを得ない程のキワモノが居る上、現在その多くがこの場に肩を並べている為、キッパリと言い切れない。
……苦し紛れではあるがアッシュは『そう思いたくなるよなぁ……』と、同情混じりの答えしか返せなかった。